エクサン・プロバンス音楽祭2023 ベルクの歌劇「ヴォツェック」をNHKプレミアムシアターで観る
今年の "Festival d'Aix-en-Provence 2023" からアルバン・ベルク(Alban Berg, 1885–1935)のオペラ "WOZZECK" です。
ベルクが各幕の音楽構成をキッチリと作り込んでいて音楽的に手の込んだ作品ですが前衛音楽、ストーリーは生体実験や狂気錯乱や貧困と言った陰惨さで一般的には人気があるオペラではないと思います。
そこをどう料理するか、今回演出のマクバーニーには知見が無いのでどの様な方向性なのか楽しみです。
ベルクの"ヴォツェック"(1925)と"ルル"(1928)、それを合わせた様なB.A.ツィンマーマンの"兵士達"(1965)の三作品は時代の流れを感じさせて興味深いですね。

(写真はwebよりお借りしました)
演出
シンプルさを前面にしていますね。舞台・衣装から動きまで全てが単純化され、キャストは表現主義的な鋭い表現でこの陰惨なストーリーを表現しています。その単純性が心的葛藤を表現する前衛音楽とフィットしていたと言って良いのではないでしょうか。
ストーリーの置き換えもありませんし、極端な前衛性もありません。
舞台・衣装
上記の通り色彩も含めて両者極端にシンプルです。モノクロのプロジェクトマッピングが時折使われるものの程良く、照明もスポットライトをキーに暗い周囲とのコントラストで統一されています。配役や合唱団員の動きも少なく小さくなっていますね。配役
【女性陣】マリー役のビストレムは無表情の中に極端な素振りを付けてパントマイム風の表現です。この表現は狂気を感じて陰惨なストーリーにピッタリ来ていました。【男性陣】タイトルロールのゲルハーヘルですが、如何にもヴォツェックらしい貧乏たらしい?姿を見せます。このオペラはそれが表立たないと成立しませんから。
演技も"第三幕 第2場池のほとりの小道"でのマリーとのシーンは白眉でした。
鼓手長のブロンデレは今一つでしたが、上司の大尉ホーアは歌唱・演技共に神経質な役柄を上手く演じ、生体実験の医者役シェラットも'それらしい'表現が光ました。
アンドレスのロバート・ルイスは端役なのですが、ヴォツェックとの絡みがフィットして良いコントラストでした。
音楽
基本的に音楽は所謂(いわゆる)オペラっぽくありません。無調前衛方向が現れるので、歌唱も心地良いアリアなども皆無です。従って歌手陣はシュプレッヒゲザング風で、表現主義的な流れになりますね。LSOとラトルは陰影の強い音出しで、演出と相まってコントラストでこのオペラらしさを作りました。
演技と歌唱・音楽が表現主義的ヴォツェックでした。それを引き立てる為の極シンプル化した舞台・衣装で、それを上手く浮かび上がらせました。
極端な演出ですが前衛ではありません。ストーリーも衣装も基本に忠実です。それでもここまでの表現が作れた演出の見事さでヴォツェックらしさを楽しめましたね。
極端な演出ですが前衛ではありません。ストーリーも衣装も基本に忠実です。それでもここまでの表現が作れた演出の見事さでヴォツェックらしさを楽しめましたね。
<出 演>
・ヴォツェック:クリスティアン・ゲルハーヘル [Christian Gerhaher]
・マリー:マリン・ビストレム [Malin Byström]
・鼓手長:トーマス・ブロンデレ [Thomas Blondelle]
・大尉:ピーター・ホーア [Peter Hoare]
・医者:ブリンドリー・シェラット [Brindley Sherratt]
・アンドレス:ロバート・ルイス [Robert Lewis]
・マルグレート:エロイーズ・マス [Héloïse Mas]
<合 唱> エストニア・フィルハーモニー室内合唱団
ブーシュ・デュ・ローヌ聖歌隊 (児童合唱)
<管弦楽> ロンドン交響楽団 [London Symphony Orchestra]
<指 揮> サイモン・ラトル [Simon Rattle]
<演 出> サイモン・マクバーニー [Simon McBurney]
収録:2023年7月5・13日 プロバンス大劇場(フランス)