FC2ブログ

カイホスルー・ソラブジ の「"怒りの日"によるセクエンツィア・シクリカ」8時間超えのピアノ・ソロ曲



カイホスルー・ソラブジ (Kaikhosru Sorabji, 1894-1988)
今更のソラブジになりますので以下紹介文は過去ログからになります。

ソラブジと言えばピアノ曲、超絶と長時間でしょう。ブゾーニに見出され、ゴドフスキーやシマノフスキに傾倒したという時点でその方向性は浮かぶのではないでしょうか。

1930年から、自曲の公開演奏を禁止していたのも知られる処で活動期は大きく三つの期間になりますね。その第一期はひたすら長大化した時代で「交響変奏曲(pf版)」は約9時間にもなります。第二期は1940年代を中心として"擬似トーン・クラスター"や長時間の中にパートを区切るといった技巧を凝らす様になります。第三期は1970年代を中心に前衛の停滞期と重なって注目度が上がり、公開演奏解禁や演奏時間も短縮傾向になりました。日本で知られる様になったのはその後でしょう。



Sequentia cyclica
Super Dies Irae ex Missa Pro Defunctis (1949)
ソラブジのピアノ曲と言うとインプレ済みの、"オプス・クラビチェンバリスティクム"(1930)、"超絶技巧百番練習曲"(1944)がよく知られる訳ですが、本人も言っている通りで最大の作品の一つはこの曲になるでしょう。

28パートで8時間を超える演奏時間、初めに提示される4'半のテーマ以降は27パートの変奏になります。実際にはそう単純ではなく、パート22(XXII)の "パッサカリア" は100変奏にもなります。(それだけで1h20mを超えますね)

超絶技巧ピアニストとして知られるジョナサン・パウエル(Jonathan Powell: b.1969)が2010年に全曲を初演して、2015年には録音をしていました。録音の事実は海外で知れれていて(webで読んだ事があります)、やっとリリースされた訳ですね。ライナーノートには、30ページ以上に渡って全曲解説(アナリーゼ的)を含むパウエルによるノートが綴られています。一度読んでから聴くか、聴きながら読むか、それも楽しみです。パウエル曰く"熱帯のノクターンからフーガ, パッサカリアまで、ソラブジの全体像がある"としていますね。






CD7枚組です


0) テーマ
 冒頭提示される"怒りの日"のテーマ、すぐにリストやベルリオーズが浮かびますね、ですがスローで淡々として静的な落ち着いた主題提示となっています。いかにも素材的なプレーンさです。

以下、27の変奏はJ.パウエルによる分類でインプレしようと思います。(聴くのはCDの変奏No.順ですが)



1) 1時間を超える "マイルストーン" の三曲
   (X, XIII, XIV, も大きな塊だと記している部分もありますが、下記3. に)
① IV. Tranquillo e piano
 提示主題のトレースの様な淡々とした流れから入りますが、それが延々と変調・多調的に表情を変えながら続きます。徐々にテンポを上げてコードも出て来ます。極端な不協和音(無調の様な)は一切入りませんね、スコアを見ないとわからないかもしれませんが。パウゼを挟んでセクションが変わりると、同じ様に淡々としたテーマが現れます。時にハッとする様な美しい流れが現れ、クライマックスは35'からの激しさ、聴き処は40'辺りの主題ですね。
最終的な全体調性は"C minor"だとパウエルは言っています。


② XXII. Passacaglia [with 100 variations]
 Variation 100までを9グループに分けて個々の変奏の区切れはありません。Variations 1-11はテーマを鎮めた様な変奏で入り、初めて不協和音の強い流れや右手左手のポリフォニー即興性と言ったXXIまでには無い流れを見せます。それだけでなく、それまでの根底に感じた印象派的な響は薄まっています。12-24ではスロー静で暗い変奏を主体に…と続けたいのですが、残念ながら素人にはVariations 1-11の大きな変化以降は特徴的なモノは感じられませんでした。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  "XXII パッサカリア"抜粋です



③ XXVII. Fuga
 5パートのラスト27番目の変奏曲です。タイトル通りにフーガで右手左手が音を出しますが、無調なのか細かな転調なのか不安定な音色を聴かせます。淡々としたヴェーベルンの様な点描的流れから、アルペジオが速くなり、左右の手の対位法的な流れを見せ、和音で音を広げます。そう言った意味では上記① IV.にフーガを入れた様な構成かもしれません。ヴェーベルンが浮かんだのはそれまでに多々感じた印象派的な耽美さが無いからでしょう。
ただ、後半に向かうほど調性的な音になって、タッチも強まります。コーダ?は強烈にpfを鳴らしラスト20"はペダルの残響て終わります。



2) キャラクタ作品 - オマージュ

④ XIII. (ゴドフスキーに)
 ゴドフスキーというよりも、仏印象派の和声ベースのイメージが強いですね。テーマを4回設定しているとパウエルは書いていますが、流れは終始静的美しさです。


⑤ XV. (アルベニスに)
 "Hispanica", スペインの民族和声が感じられる曲になっていますね。この変奏の中で唯一異なる和声を感じられる曲です。弾む様なリズムも特徴的で、明るさがあります。でも根底にしっかりと印象派的な流れは残されていますね。ラスト強鍵で終わるのも珍しいです。


⑥ XVI. (アルカンに)
 聖歌をモチーフにしているそうです。静で美しい和音、どこかサティを思わせる流れから重厚さに変化するこれも特徴的な曲です。"F minor"の調性がアルカンに対する敬意を表していると書いてありますね。


⑦ XIX. Quasi Debussy (ドビュッシーに)
 思い切りドビュッシーですね。というか、全体的にこのイメージが付き纏うので、ここで驚く事は何もない感じでしょうか。パウエルは全体のハイライトだと言っています



3) 時間の長いスローなグループ: X, XIII, XIV
 一括りで1.の"マイルストーン"に含めるグループだともパウエルは書いています。33'あるX.はかなり面白い個人的オススメ曲になっています。ノクターンであり、浮遊感はシマノフスキ、印象派ラヴェルの音色、ドビュッシーのイメージが構成されています。心地良さが感じられますね。XIII は2. に書きましたが似た傾向。XIV はシマノフスキ色が濃く静が強い流れに終始します。
全曲を通して感じる主流がここにある感じですね。心地良いBGMの様です。



4) moto perpetuo(速い) 短い曲:I, VI, VII, XI, XX, XXV
 基本的に速いアルペジオで駆ける変奏ですね。
右手が速いのが特徴の I 、リズミカルに主題を聴かせるVI, VII 、跳ねる様な2'の小曲XI、少し重さを持って弾むXX、瀟洒な右手快速アルペジオの2'の小曲XXVです。



5) 筋肉質な10のパート:V, IX, XII, XVIII
 10'程度にまとめられていて、力感とハードタッチのヴァリエーションではありますが、破れんばかりの音塊という程ではありません。また、流れの中に静的パートも入って構成感もあります。ただ、時たまでいいかな…と言った印象です。"怒りの日"らしい動機を前面に出した強烈なパートが無いのが残念ですね。冒頭だけですが、それを聴けるのがXVIII. です。



6) arioso-type(より旋律的)で短いパート:III, XVII, XIX, XXI, XXIV
 エモーショナルな美しい流れに変奏されて、III. などは仏印象派の様なタッチですね。もちろん流れの中に激しさもあって、ariosoの元語はアリアですが、そう言った感じも盛り込まれています。その後 XVII. は美しい流れ一色、XXI. XXIV. は暗い幽玄な美しさをベースに、といった特徴の薄い流れになります。(XIXは2. に)




とにかく長いのですが、全体淡々とした変奏で予想以上にクールな印象派風です。超絶技巧性をひけらかす事も、殊更のエモーショナルさを奏でる事も、"怒りの日"動機を前面にする事もありません。後期の幽玄さへの道筋なのかもしれませんね。

ピアノ曲マニア必聴、一度は聴かないと!!でしょうかw また、3.のグループをリピートしたらスーパークールな洒脱BGMとしてもアリかと。



 ▶️ 現代音楽の楽しみ方  ▶️ 現代音楽CD(作曲家別)一覧


テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





コメントの投稿

非公開コメント

ようこそ
カテゴリ
ありがとうございます