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ワーグナーの序曲・前奏曲を楽しめる管弦楽曲集:クールなデ・ワールト vs 濃厚なエストラーダ


ワーグナー管弦楽曲集
①エド・デ・ワールト ②アンドレス・オロスコ=エストラーダ
リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)の楽劇の序曲や前奏曲を集めたアルバムですね。一昔前は人気があったと思うのですが、今やなんでも全曲版の時代。このパターンが少なくなった気がします。でもコンサートでの登場機会もあり、ワーグナーのお馴染みの曲を知っておきたい、聴いてみたい、と言ったニーズはあると思うのですが。

ちなみにワグナーが序曲から前奏曲に替えたのは"ローエングリン"から、歌劇を楽劇に替えたのは次の"トリスタンとイゾルデ"からですね。

色々ありますが 個人的に馴染んでいたのはEMIカラヤン盤('74)ですね。今更それもないと思いますので、今回は色合いの異なる二つのヴァージョン、"エド・デ・ワールト指揮/オランダ放送フィル"(2003) と "アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮/フランクフルト放送響"(2018) で聴き比べてみようと思います。

ワーグナー作品年代 w:ワールト, e:エストラーダ】
  1840年:リエンツィ e
  1842年:さまよえるオランダ人 w, e
  1845年:タンホイザー w, e
  1848年:ローエングリン w, e (eは第1幕前奏曲のみ)
  1848-1874年:ニーベルングの指環 (今回録音なし)
  1859年:トリスタンとイゾルデ w, e
  1867年:ニュルンベルクのマイスタージンガー w
  1882年:パルジファル w, e




① Edo De Waart
Radio Filharmonisch Orkest Holland


Orchestral Work I
 
(左はハイブリッド盤, 右はシングルレイヤーSACDです)


『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲
かの冒頭の"マイスタージンガーの動機"はやや速めの落ち着いた気配で入ってきますね。"求愛の動機"はフルートで静める様に、コラールの様な"ダヴィデ王の動機"で華やかに、"芸術の動機"から山場へ向かいますが、この曲としては落ち着いた流れでしょう。展開部以降も同様で曲構成のわりには落ち着いた前奏曲になっています。

余計な事ですが、この曲の再現部の動機(主題)の表情を変える変奏パターンはマーラーもよく使っていると思いますね。


『ローエングリン』第1幕への前奏曲
序奏で天上が奏でられて、繊細で透明感ある"聖杯の動機"が現れます。木管に動機が移ると明るい光を感じる様になり、さらに金管が入って緩やかな広がりにします。山場は自然な流れで迎えて、静かに弦楽でおさめられていきます。穏やかで心地良い前奏曲になっていますね。


『ローエングリン』第3幕への前奏曲
第3幕の結婚行進曲への短い導入曲ですから"歓喜の動機"を切れ味よく必要以上の興奮を避けながら入ります。"婚礼の動機"を優美に奏でて、再び"歓喜の動機"がシャープに出現します。派手な曲ですが、落ち着いた前奏曲になっていますね。


『パルジファル』第1幕への前奏曲
冒頭の"聖餐の動機"は澄んだ音色を奏でて不安の流れを保ち、二回目の全休符後に"聖杯の動機"がゆったりと鳴り渡ります。"信仰の動機"が明るい光を優しく与えて、全体的には落ち着いた流れで、寂しげな"聖餐の動機"が印象的な前奏曲です。


『さまよえるオランダ人』序曲
ホルンが響く"呪いの動機"は締まり良く入り、鬱に流れます。ゼンタの"救済の動機"は静かに奏され、対話をする様ですね。曲が混沌としながらコーダは"救済の動機"で鎮まります。とは言え、抑えの効いた序曲の印象です。


『トリスタンとイゾルデ』第1幕への前奏曲・愛の死
前奏曲」のトリスタン和声が現れる冒頭の"憧れの動機"は間を作りながらもクール、"愛のまなざしの動機"は徐々にくるおしさを増しながら大きな波となりますが、揺さぶりはなくスッと冒頭の動機に寝ります。緩やかで冷めた前奏曲になっています。

愛の死」では"愛の死の動機"で静かに入り、"愛のまなざしの動機"の変奏で徐々に上げて行きます。ラストに静かに"憧れの動機"を見せます。愛の濃厚さ気高く表す感じです。


『タンホイザー』序曲
冒頭の"巡礼の動機"は緩やかに光を感じます。そのまま大きく盛り上げて"バッカナールの動機"を劇的に、巡礼動機を挟んで"ヴェーヌスの動機"は陽気に現れますね。例によってクールなコントラストですね。動機を絡ませ山場は激しさを見せて、ラストは落ち着いた広がりですね。落ち着いた構成のタンホイザーです。



楽曲構成に忠実さを感じ、興奮を排したクールなワーグナーの序曲・前奏曲になっていますね。揺さぶりは少なく、唸らせる様な流れは避けている感じです。

序曲・前奏曲自体で勝負と言うよりも、あくまでも全曲への導入をする印象です。




② Andrés Orozco-Estrada
Frankfurt Radio Symphony


Overtures & Preludes


『さまよえるオランダ人』序曲
"呪いの動機"は華々しく激しく、この曲らしさを感じます。"救済の動機"では鬱的なゼンタを緩やかに表してコントラストが良いですね。その後も荒々しさを表に出して、コーダの"救済の動機"で心の鎮まりを見せます。ストーリー性を強調する様な序曲です。


『ローエングリン』第1幕への前奏曲
澄んだ天上の音色から"聖杯の動機"は細い弦音でやや速めの繊細さです。木管が入ると落ち着いた音色となってきます。さらに金管が入る事で重心を下げて、山場は雄大に奏でます。まるで天上界から降臨するかの様です。速めのテンポ設定と楽器編成を生かして、名曲の美しい流れに磨きをかけていますね。


『トリスタンとイゾルデ』第1幕への前奏曲
入りの"憧れの動機"から大きくスローにアゴーギクを振っています。そこから"愛のまなざしの動機"がチェロで緩やかに入ると、感情移入の強い流れで二人の絡み合う情感が伝わる様です。高みに登った二人の感情が最後は見つめ合いながら離れる様におさまります。ストーリー的で情熱溢れる愛の前奏曲になっていますね。


『トリスタンとイゾルデ』イゾルデの愛の死
"愛の死の動機"はゆっくりと光がさす様に、そして"愛のまなざしの動機"変奏を繰り返しながら感情を高めて山場は劇的です。静かに死を迎える様に音をまとめるのも上手いです。イゾルデの愛が溢れる「愛の死」で、思わずグッときます。


『パルジファル』第1幕への前奏曲
"聖餐の動機"は穏やかで緩やかな光の様です。一回目の全休符後は哀しみに色を変え、二回の全休符後の"聖杯の動機"は堂々と鳴り響きコントラストが見事ですね。"信仰の動機"は緩やかに大きく、静かな中から現れます。アゴーギクを排したスロー静の中に表情のある前奏曲になっていますね。後半やや中だるみ感があるのが少し残念です。


『タンホイザー』序曲
"巡礼の動機"は澄んだ哀愁の音色を感じます。"バッカナールの動機"・"ヴェーヌス"の動機は派手な鳴りで色合いを濃く奏します。山場は速目に刺激を与えて、ラストはもちろん壮大そのものです。本編並みに激しい流れになっていますね。


『リエンツィ』序曲
殆ど序曲でしか聴くことのない歌劇ですね。導入部の管楽器の動機は暗く落ち着き、リエンツィの祈りで広げる様に美しい流れを作ります。雄叫びでは大きく鳴らして流れに変化を付けています。その後もメリハリ主体で、この曲を派手に飾り立てていますね。



アゴーギクとディナーミクによる色付けがマッチしたメリハリのあるワーグナーの序奏・前奏曲になっています。

トリスタンとイゾルデ「愛の死」は気持ちが入ってしまいますし、ローエングリンの第1幕前奏曲は素晴らしい演奏です。エストラーダ侮れず!! と言った感じですね。




クールなワールト、濃厚なエストラーダと言うとても対照的な二枚ですね。ストーリーをイメージしながらゆったり聴くならワールト。感情移入しながらメリハリを楽しむならエストラーダでしょう。

ワールトのワグナーと言うとデ・ヴリーガー編曲の管弦楽版"指環"が知られる訳ですが、個人的には以前インプレしたジョナサン・ダーリントンの"ドレスラー編曲版"も侮れずだと思います。


テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





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