バイロイト音楽祭2023 ワーグナーも驚くAR採用の「パルジファル」をNHKプレミアムシアターで観る
Bayreuther Festspiele 2023 "Parsifal"
バイロイトの演出と言えば前衛的で何かしら一悶着起こす訳ですが、今回は一部のオーディエンスしか使えなかったARグラスの導入(準備したのは2,000人中330個) が物議を醸しました。もちろん放送ではそれを見られる由もありませんが。
話題はもう一つ、ガランチャのバイロイト・デビューです。グバノヴァ(Ekaterina Gubanova)の代役で、今回はタイトルロールも代役でした。珍しい事ではありませんが、個人的にはガランチャのファンなので嬉しいですね。

(写真はwebからお借りしました。左2枚目がARシーン?!)
演出
ストーリーの置き換えと、ストーリーそのものに手を付けた前衛演出です。聖杯の守護ではなく、デジタル世界でコバルトやチタンと言ったレアメタルの守護者としているそうです。(その解説が無ければ、ただの抽象表現にしか感じませんが…)
聖杯はそれらの結晶になって、最後はパルジファルによって粉砕されてしまいますし、クンドリも死にません。
前奏曲でのグルネマンツとクンドリ似のキャストとのいきなりのセクシャルシーンは奇妙で、ラストでもこの二人が抱き合う姿があります。(クリングゾルの罠にかかったアンフォルタスのイメージ?)
ただ不思議な事に各シーン置き換え感は低く展開もストーリーに忠実になっているので違和感は少ないでしょう。
舞台・衣装
衣装はとても簡易で、舞台もシンプルな大物配置で背後に大きなプロジェクションマッピングが使われます。暗く抑揚の低いシーンは多分ARで様々なシーンが追加されているのでしょう。配役
【女性陣】まずは紅一点クンドリのガランチャ。ワーグナーの楽劇の中で唯一 敵味方が不明瞭な女性役を上手く演じたのではないでしょうか。(第一幕の髪の白黒染め分けはそれを意図?!)特にシャープで硬質なmezは役柄にとてもフィット、第二幕でパルジファルと対峙するシーンは観応えがありました。
【男性陣】タイトルロールのシャーガーも第二幕の覚醒シーンからは良かったです。それまでは'愚かな'と言うよりも存在不明の印象でしたから。クリングゾルから聖なる槍を取り上げるシーンはゾクっとします。
グルネマンツのツェッペンフェルトは抑えた(脇)役を演じるなら今最高のバス・バリトンでしょう。ここでも控えめながら落ち着き払ったツェッペンフェルトらしい演技と歌唱でした。名前を見た瞬間から安心感が生まれる一人ですね。
アンフォルタスのウェルトンも苦痛に支配される王を上手く演じていました。役柄通りではありますが熱演も光ました。
クリングゾルのシャハナンも良い(悪い?w)気配を漂わせて演技力を魅せてくれました。こちらはリアルな憎々しさよりもピンクの衣装とツノでファンタジーっぽさでしょうか。
音楽
有名な前奏曲はややスローに入って静美な流れから少し劇場性を効かせるタクトでした。もっと澄みきった"トリスタンとイゾルデ 愛の死"の様な演奏が好みですが、楽曲全体の動機は含まれるのでこれが良いのかもしれません。全体的にも局所的な強いメリハリを感じる演奏になっていました。前衛演出は中途半端でした。ストーリーの置き換えや変更は見た目だけで、キャストの動きは本筋通りの王道的。これではギャップも違和感も薄く前衛とは言えないでしょう。
また各シーンは時にあまりにシンプルで 'ARだとどう見えたのか?' が拭えませんでした。
キャストはそれぞれ楽しませてくれました。ツェッペンフェルトとガランチャが良かったですね。独サイトを見ても概ねこの二人の評価が高かったです。
カーテンコールも歌手陣は喝采で演出陣にはブーイングでしたが、個人的には楽しめました。
また各シーンは時にあまりにシンプルで 'ARだとどう見えたのか?' が拭えませんでした。
キャストはそれぞれ楽しませてくれました。ツェッペンフェルトとガランチャが良かったですね。独サイトを見ても概ねこの二人の評価が高かったです。
カーテンコールも歌手陣は喝采で演出陣にはブーイングでしたが、個人的には楽しめました。
<出演>
・パルジファル:アンドレアス・シャーガー [Andreas Schager]
・クンドリ:エリーナ・ガランチャ [Elīna Garanča]
・クリングゾル:ジョーダン・シャハナン [Jordan Shanahan]
・グルネマンツ:ゲオルク・ツェッペンフェルト [Georg Zeppenfeld]
・アンフォルタス王:デレク・ウェルトン [Derek Welton]
・ティトゥレル先王:トビアス・ケーラー [Tobias Kehrer]
<合唱> バイロイト祝祭合唱団
<管弦楽> バイロイト祝祭管弦楽団 [Orchester der Bayreuther Festspiele]
<指揮> パブロ・エラス・カサド [Pablo Heras-Casado]
<演出> ジェイ・シャイブ [Jay Scheib]
収録:2023年7月25日 バイロイト祝祭劇場(ドイツ)