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『マーラー 交響曲 第5番』«ネット配信» ハンヌ・リントゥ指揮 フィンランド国立歌劇場管 2023年8月22日


Orchestra of the Finnish National Opera
Hannu Lintu
(cond.)
フィンランド国立歌劇場管弦楽団60周年記念コンサートで、日本でもお馴染みのフィンランド人指揮者ハンヌ・リントゥが振ったマーラー5です。個人的にはリントゥのマーラーは印象がありませんが。

昨日インプレのマルッキ/FRSOに続いてフィンランドの指揮者/オケ、そして先週のLIVEです。配信も同じフィンランド国営放送(yle)からになります。


▶️ Yle Areena (配信は2023-11/26までの様です)





«ネット配信»
Mahler Symphony No. 5

OrchestraOfTheFinnishNationalOpera60years-mahler5.jpg
[Live at Helsinki Music Centre, 22 Aug 2023]


第一部
葬送行進曲は重厚さは避けたスロー鬱、第一トリオでは約束通りのテンポアップ、第二トリオも教科書的な穏やかな鬱です。
第二楽章第一主題と第二主題は一楽章のパロディパターンで予想通り。展開部の"烈-暗-明"のコントラストも'ありきたり'な感じです。行進曲は不自然さも。
やや平凡に感じる第一部かも。

第二部
スケルツォ主題は何やらhrが怪しくまとまりの弱さ、レントラー主題もスローの優美さが生かせません。第三主題主部のオブリガート・ホルンは艶やかさに欠け、変奏パートは変化が弱く弦もフラットです。短い展開部は何とか明るく、再現部も各主題を力感で乗り切り、コーダはパワーで押し切ります。
一体感に欠けるスケルツォ楽章になってしまいました。

第三部
弦楽奏でまとまりやすい第四楽章ですが主部はモヤモヤと、中間部の静美さもただ細い音色にした様な、何処か落ち着かないアダージェットです。
第五楽章第一・二主題は何となくギクシャク、コデッタは優美さを何とか。展開部は始めから荒れた力感で流れに任せて、再現部後半からコーダもグワッと一気に走ります。よくわからないまま大喝采で終演です!!


残念ながら締まりに欠けるマーラー5になってしまいました。指揮者やオケの個性を聴かせる以前、曲をまとめるのが手一杯といった印象です。最後も暴れて終われば良いと言う事もない様な…

フラットで切れ味や一体感が弱いのはオケの技量に一因がありそうで、リントゥの指揮台を踏む靴音が虚しさを響かせます。



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





『マーラー 交響曲 第9番』«ネット配信» スザンナ・マルッキ指揮 フィンランド放送交響楽団 2023年8月24日


Finnish Radio Symphony Orchestra
Susanna Mälkki
(cond.)
現代音楽を得意として、アンサンブル・アンテルコンタンポランで指揮者デビューしたフィンランドの女性指揮者マルッキ。現在はヘルシンキ・フィルの主席指揮者(2024からは名誉主席指揮者)を務めます。
もちろん好きな指揮者の一人で、LAフィルとのマーラー5(2019) は名演でした。

今回は先週FRSOに客演したマーラー9で、フィンランド国営放送(yle)からの映像付き配信です。


▶️ Yleisradio (配信期間は短いと思われます)





«ネット配信»
Mahler Symphony No. 9


RadionSinfoniaorkesterinKonsertti-Mahler9-2023.jpg
[Live at Helsinki Music Centre, 24 Aug 2023]


第一楽章
第一主題はスロー静で緩やかに、第二主題でも緊張感は抑えて変化は少なめです。反復から厚く第三主題で始めのピークを鳴らします。展開部前半の鬱は鎮めてシュトラウス引用でも明るさは抑えめに、そして第三主題は華々しく。見事なコントラストで、後半でもこの対比を軸にしています。
静と鬱の美しさを軸にピークとのコントラストを付けた堂々王道の第一楽章でしょう。

第二楽章
レントラー主題は木管の軽妙さに弦の力感のコントラストを明瞭に、第一トリオは切れ味を聴かせて、第二トリオはもちろん穏やかさです。回帰の主題ではテンポアップと狂乱をキッチリ魅せて来ます。
シャキッとした締まりある流れのレントラー楽章です。

第三楽章
主部主題はアレグロらしい力強さでテンポを上げ、第一トリオはテンポをキープしつつ少し軽妙化して進みます。第二トリオは穏やかさにチェンジ、tpのターン音型は最終楽章ラストの雰囲気を構築します。ラストは激走のストレットです!!
ハイテンポのアレグロとターン音型の静美のコントラストの第三楽章です。

第四楽章
主部主題は穏やかスローに哀しみの美しさを広げ、fg動機の後は音厚を程良く上げています。無理やりさが無いのが良いですね。
第一エピソードは静鬱で鎮めて緩やかに、ゆっくりと感情を深めてピークは哀しみが溢れます。その後の静音ターン音型も心に響きます。感情溢れる素晴らしい第一エピソードになりました
第二エピソードは静の流れをそのままキープ、ここでもピークは感情が揺さぶれる音厚を効かせます。コーダは約束通り浮遊感のターン音型を静に鳴らして消え入ります。
近年流行りのラストの照明ダウンや、静寂の余韻を長々と引きずる事はしませんでしたね。


王道的で見晴らしの良いマーラー9です。主題や動機、そして楽章事の性格付けでメリハリをつけた結果でしょう。その全ては王道解釈であり、奇を衒った変則性はありません。

FRSOもマルッキの意図を表現して聴き応えある演奏になっています。特に最終楽章の第一エピソードは見事です👏
マルッキも見られますから、配信中に鑑賞される事をオススメします。



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





アタッカ・クァルテットで聴く キャロライン・ショウ(Caroline Shaw)の「Evergreen」


Evergreen
(Caroline Shaw, b. 1982) Attacca Quartet
過去4CD(下記)をインプレしている好きな米女性現代音楽家です。NYを拠点としていてヴォーカリスト、ヴァイオリニストでもあります。



楽風は、"多様性のミニマル" → "N.Y.ブルックリンのポップカルチャーサウンド" → "美しい静空間サウンド"、と変化して来ているのを感じます。
アタッカ・クァルテットとは2020年グラミー賞受賞の "Orange" でも共演していますが その後はSō Percussionとも素晴らしいアルバムを2枚リリースしていて、個人的にはそちらの方が気に入っています。

今回は弦楽四重奏曲集で、2. 4. 6.はショウ本人がヴォーカルで入っています。タイトル曲はカナダの西海岸沖のSwiikw (Galiano Island)にある特徴的な常緑樹(Evergreen)に捧げられたそうです。まぁevergreenには"名曲"と言う意味もあるわけですが…w







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1. Three Essays
 I. First Essay (Nimrod) - II. Second Essay (Echo) - III. Third Essay (Ruby)
I.は美しいメランコリックな弦楽四重奏曲です。機能和声の明瞭な旋律による反復・変奏、そしてホモフォニーの旧来的な構成です。
II.では特殊奏法ノイズで入って旋律感ある短旋律と大きく変化。調性を崩す様な幽玄さもあって一気に様相を変えて来ます。I.とのコントラストが見事、でもベースはメランコリックな哀しみで統一されます。
III.も面白く、グリッサンドとピチカートを生かしたハイテンポの流れですね。I. II. III.で自由度をどんどんと広げて変化する楽しさがあります。時にかつて軸だったミニマルも散見出来ます。


2. And So (2021), solo vocal and lyrics by Caroline Shaw
ここではメランコリックで繊細なSQ/vocalです。歌手でもあるので流石ですね。


3. Blueprint
1.の自由度をもっと混ぜ合わせた様な細かな変化を見せます。スローの美しさやテンポアップの力強さ、表情の細やかな変化、今の時代の弦楽四重奏曲かもしれませんね。コンサート受けしそうです。

 ★試しにYouTubeで観ててみる?
  アタッカQのLIVEですが、CDよりこちらの方が力強いです


4. Other Song, solo vocal and lyrics by Caroline Shaw
2.よりも技法的には自由度を上げていて、3'強ではもったいない様な気がします。


5. The Evergreen (2020)
 I. Moss - II. Stem - III. Water - IV. Root
I.は速いトリル・トレモロの澄んだ音色が印象的、II.ではロングトーンから短旋律の単純反復になり音厚が上がります。
III.は緩徐パートで、音数の少ないピチカートの静空間と上手い変化を作ります。IV.ではバッハのチェロソナタの様な旋律にvnやvaが絡みます。反復が基本構成で、徐々に厚くクレシェンドします。
パート構成的にはそれまでと流れの変化が少し異なって来ているのを感じます。


6. Cant voi l'aube, lyrics by Gace Brulé and solo vocal by Caroline Shaw
古いフランスの詩人の作品を元にしているそうです。穏やかな流れがゆっくりと沁み渡ります。



メランコリックで美しい旧来的な機能和声音楽が軸ですが、それにこに僅かに調性を崩したりノイズを入れたりと音楽的自由度を高めた構成です。

ヒーリング効果もありそうな流れですが、どこか哀しみを隠した様な'モード'を感じます。ゆっくりとした時を過ごせる素晴らしい音楽'ですね。



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アンナ・ソルヴァルドスドッティル(Anna Thorvaldsdóttir)の「ARCHORA / AIŌN」ダークな管弦楽


ARCHORA / AIŌN
(Anna Sigríður Þorvaldsdóttir, b. 1977)
本blogでも度々インプレ済みのアイスランドの現代音楽家A. ソルヴァルドスドッティル、今やアイスランドや北欧のみならず世界でも人気の音楽家になりました。
本作品も1.はBBCプロムスやLAフィル他 多数の有名オケの共同委嘱作品です。紹介文は当然ながらの割愛と言う事で。

演奏はエヴァ・オッリカイネン(Eva Ollikainen)指揮、アイスランド交響楽団(Iceland Symphony Orchestra)です。オッリカイネンはフィンランドの女性指揮者で2021シーズンからISOの主席指揮者を務めます。







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1. ARCHORA (2022)
単一楽章21'ほどの楽曲です。重厚な立ち上がりで、その厚い雲の様な背景音に弦のトリル・トレモロやコル・レーニョで被ってきます。そして打楽器も入って音厚が益々上昇。背景音はキープされたまま、渦めく様に前音が唸りの様に絡みます。多少の変化はありつつもその流れは統一されていますね。
機能和声(調性記号がなくても調性感の強い)にあって、明瞭旋律のない音塊流音楽です。ドローンに近いかもしれません。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  "BBC Proms 2022"での世界初演です


2. AIŌN (2018)
  I. Morphosis - II. Transcension - III. Entropia
I.ロングトーン背景に下降音階主体の前面奏1.と同じ構成です。後半は打楽器も効果的に使われます。
II.は緩徐楽章かと思いきや、基本の流れをキープしてドローン的なテンポも含めて変化率は低めです。僅かな旋律が存在したり、打楽器も少し厚めだったり、少しノイズも登場したりはしますが。
III.でも様相・表情は変わりません。これが今のソルヴァルドスドッティルだと言う事がはっきりしますね。



音の塊が重低音で黙々と流れる音楽です。かつてのノイズ主軸の多様性から変貌して暗く鬱なアイスランドの冬の情景(行ったことありませんがw)と言っても良いのかもしれません。

やっぱり目が離せないA.ソルヴァルドスドッティル、一聴の価値有りです。



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マルトン・イレス(Márton Illés)の「Watercolors And Psychograms」


マルトン・イレシュ
(Márton Illés, 1975/12/12 - )
ハンガリーの現代音楽家でピアニストです。ハンガリーでピアノと作曲を習った後、チューリッヒとハノーバーでピアノを主として習い、作曲をW.リームに師事していますね。[過去の投稿より引用]



Watercolors And Psychograms
(ensemble recherche)
7曲構成のソロと小アンサンブル作品集で、ソロとアンサンブルが交互に配置されています。楽曲はタイトル通り "Watercolors" と "Psychograms" のヴァリエーション(小曲)です。
KAIROSなのでライナーノートには曲ごとに細かく意味不明の解説が付きますw

演奏は前衛現代音楽を得意とするドイツの"アンサンブル・ルシュルシュ"になります。







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1. Three Watercolors for Clarinet (2014)
3パートの小曲集です。まず感じるのはclらしからぬ音色です。どちらかと言うとflの様な。そしてロングトーンから細かく速い流れ、技巧的な流れと、エチュード的な楽曲です。調性感は明瞭に残します。


2. Three Watercolors for accordion, piano and string trio (2016/2020)
これも小曲3パートで、五重奏曲です。特殊奏法も混じえながら緊張感ある凌ぎ合いを見せます。いわゆる旋律感は低く、短旋律の反復・変奏を対話の様なホモフォニーに構成しています。
アコーデオンらしさが生きていないのが残念かも。


3. Psychogram I. "Jajgatós" (Wailing) for Viola (2013/16)
ベースはスローとファストで激しさには特殊奏法ノイズと荒っぽいボウイングが配される弦楽器の前衛っぽさがあります。ただ他の曲と似たり寄ったり感が強いかもしれませんが。

 ★試しにYouTubeで観てみる?


4. Three Watercolors for Clarinet, Violin, Violoncello and Piano (2017/2020)
3パートの四重奏曲です。楽器編成が変わるだけで全体構成は同じ、殊更に編成を意識したものも感じられません。


5. Psychogram II. "Rettegs" (Fearful) for Clarinet (2015)
1.と良く似た楽曲です。


6. Three Watercolors for Small Ensemble (2018/2020)
ここで初めて弦のグリッサンドが登場します。でも どうしてもシャリーノが浮かんでしまいます。それをトリル・トレモロと特殊奏法に絡めるアンサンブルは前衛の古典でしょう。
それまでと異なるとすれば、対話型にポリフォニー的流れと静空間が感じられる事かもしれません。


7. Psychogram IV. "Durcáskodós" (Sulking) for Violoncello (2019/2021)
3.と似た印象ですが、グリッサンドが入って少し面白いかな?!



古典に比べれば無茶苦茶でしょうが、調性感を残しますから前衛としたら聴きやすい?でしょう。KAIROSのリリースとしたら前衛度は低いです。

"緊張感ある楽器対話" "スロー/ファストと静/烈" "心地良い旋律の無い機能和声" "反復と変奏" で全体的に似たり寄ったり感が拭えないのは残念です。ソロ曲はコンサートに向いているかもしれませんね。



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コンタルスキー(Kontarsky)兄弟で聴くB.A.ツィンマーマン(B.A. Zimmermann)のピアノ曲集


Présence | Intercomunicazione | Perspectives | Monologues (Bernd Alois Zimmermann, 1918-1970)
Alfons & Aloys Kontarsky: pf
ベルント・アロイス・ツィンマーマンはこのブログを象徴する作曲家で、今まで多々紹介済みですです。欧エクスペリメンタリズムの全盛にあって異才を放った、引用とコラージュの独自音楽観でした。

コンタルスキー兄弟のピアノデュオ、兄アロイス(1931-2017)と弟アルフォンス(1932-2010)、はクラシック音楽を広く網羅していましたが、やっぱり前衛の印象が強いでしょうか。

収録の四曲は、ピアノデュオ曲が二曲、ヴァイオリン(Saschko Gawriloff: vn)とチェロ(Siegfried Palm: vc)とのトリオ一曲、ヴァイオリンとのデュオ一曲になります。(ピアノ一台の場合は兄アロイスです)

1956年から1967年の四作品です。代表曲の年代だと、"兵士たち"(1965)、"ユビュ王…"(1966)、"ある若き詩人の…"(1969)ですから、そこに向かう楽風変化が聴けそうです。
せっかくですから年代順に聴いてみましょう。(No.がCD収録順です)







2. Perspectives for two pf (1956)
1950年代のツィンマーマンはセリエルの方向性でした。まさに点描的音列配置が作るピアノデュオ曲で、低音と高音の対比、静と強の対比、そんな感じです。印象的なのはクラスター音塊の激しさでしょうか。


1. Présence for vn, vc and pf (1961)
弦は微分音を含めて無調の調べ?を対位的に構成、そこにpfも無調点描的に絡みます。同じ無調旋律?を絡ませたり、引用も入れたり、pfのクラスターを発生させたりもしてセリエル的点描からの進化形ももちろん利かせます。でも典型的な無調の前衛でしょう。
作曲された1961年はトータルセリエル→ポストセリエルの真っ只中でしたね。


4. Monologues for two pf (1964)
二台のピアノですが、基本は上記1.同様の点描的なセリエル色の楽曲です。ですが、反復や激しいクラスターが増えたり、静と烈のコントラストをより強くしたり、明確な古典の引用やその崩し、調性寄りの旋律、と言ったそれを脱却しようとする表現が明瞭になります。ダイナミックさも感じられるでしょう。
この辺りからツィンマーマンらしさが見えて来る感じですね。


3. Intercomunicazione for vc and pf (1967)
三年後、弦(チェロ)はロングトーン主体の音色に大きく変化し音列配置的旋律が崩れます。ダブルストップによる微妙に崩した調性旋律の反復も入り、pfも和音やテンポや残響音のある感情表現になりました。
もちろん無調ですがセリエル的混沌ではなく調性許容の多様性前衛現代音楽になって、これこそ今の時代に通じる仕様でしょう。

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  前半の演奏、Nico Lang (vc)とArmin Fuchs (pf) です



ツィンマーマンの中後期変遷をコンタルスキーのピアノで味わう、そんな楽しいアルバムです。

後期ツィンマーマンの楽風変化がわかるのはもちろん、コンタルスキーも粒立ちの良い明瞭なpf表現力で聴かせてくれます。作曲と演奏二つの個性がフィットしたオススメの一枚です。



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サラ・オーヴィンゲ (Sara Övinge)『Patientia』グラス🇺🇸とビェルケストラン🇳🇴のヴァイオリン協奏曲


Patientia
サラ・オーヴィンゲ (Sara Övinge, vn, b. 1988)
スウェーデン生まれのヴァイオリニストです。ストックホルムの王立音楽大学出身ですが、16歳の若さにしてノールショピング交響楽団(Norrköping Symphony Orchestra)にソリストとしてデビューしています。オスロ(ノルウェー音楽アカデミー)とロンドン(王立音楽大学)でも学んでいるそうです。
現在はノルウェー国立オペラ管弦楽団のコンサートマスターを務め、二つのアンサンブルのメンバーでも活躍中。演奏スタイルも即興やパフォーマンスを取り入れる方向にもある様です。

彼女が選んだヴァイオリン協奏曲米ミニマルのビッグネームとノルウェーのマルチ音楽家の作品と言う本ブログとしては前衛系ではない微妙な組合せです。

演奏はエドワード・ガードナー(Edward Gardner)指揮, ノルウェー室内管弦楽団(Norwegian Chamber Orchestra)になります。







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フィリップ・グラス
(Philip Glass, b. 1937)
今更のグラスですから紹介文は不要でしょう。代表曲の一つで四楽章にプロローグと各楽章間には三つのSongパートが入る変則的な8パートの協奏曲です。プロローグとSongは無伴奏パートでカデンツァの代わりの配置になります。

この曲で頭にあるのはG.クレーメル/クレメラータ・バルティカの録音で、同曲を中心にした2015年の来日公演にも行きました。

■1. ヴァイオリン協奏曲第2番「アメリカの四季」 (2009)
 まずプロローグやSongは神経質で金属的なソロです。抑揚は低く感情起伏は低めですが、Song 1→4で少し表情を濃くして行きます。ただ技巧パートは無いのでカデンツァの代わりとしては少々寂しいです。

Mov.I暖色の表現力で室内楽が背景を押さえます。クレシェンドで上がっていく盛り上げ方はいかにもグラス的で、低弦の刻むリズムが特徴的です。
Mov. II陰鬱な反復で入ってその上に鬱なソロが被り、緩徐の流れを落ち着きで作ります。中盤で約束通りに音厚・音圧を上げて、緩やかに緩徐に回帰です。
Mov. IIIアレグロ的にリズムに乗った流れを強調、落ち着きつつもソロと合わせて勢いに乗った流れをキープします。
Mov. IVも勢いに乗ったリズムと音圧が支配的ですが興奮は押さえられ、音塊的な一体感を聴かせます。ソロは高速の反復が聴かせ処ですね。もちろんラストは圧巻です。

クレーメルの録音に比べるとvnソロは中庸的で表情変化がやや狭く感じ、四つの楽章も通して厚い音色中心に聴こえるかもしれません。クレーメル盤は全体切れ味が鋭いですね。



シェティル・ビェルケストラン
(Kjetil Bjerkestrand, 1955/5/18 - )
ノルウェーのマルチタレント的音楽家です。作曲だけでなく編曲も幅広く、レイ・チャールズやディ・ディ・ブリッジウォーターほか多くのポップ曲の編曲を手掛けています。作曲はフィルムミュージックやTVシリーズを中心にこなし、キーボード奏者やプロデューサーとしての活躍もあるそうです。

■2. ヴァイオリン協奏曲第1番「Patientia」
 ミニマルを感じさせる単純反復がベースにいて、その上にソロvnが乗ると言うグラスと同系統の流れもあります。もちろん調性で心地良さが軸ですが、微妙な音の崩しが隠されています。シンセ音やラストにはサンプリングやノイズがあるのでエレクトロニクスが入っていますね。

基本にあるのは明瞭な旋律構成でのフィルムミュージックでしょう。リズムを強調する流れや反復、一部モードやアンビエントなパートもあって表現も多様、まさに今の時代のクラシック音楽と言った処です。



ミニマルベースの流れに身を任せるグラス、フィルムミュージックを元にしたクラシックのビェルケストラン。この辺りのナチュラルさが今の時代なのかと。

以前なら聴かない音楽ですが、時代の流れを明確に聴かなければならないと感じるこの頃です。
オーヴィンゲのvnは美しい音色ですが全体的に中庸表現が強い感じに聴こえます。二曲のチョイスが類型的なのは彼女の嗜好性と時代背景もありそうですね。



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