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『マーラー 交響曲 第5番』 «ネット配信» ウラディーミル・ユロフスキ指揮 ベルリン放送響 2022年9月13日


ウラディーミル・ユロフスキ | ベルリン放送交響楽団
(Vladimir Jurowski | Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin)
主席指揮者を務めるユロフスキとRSBの2022-23シーズン開幕のマーラー5ですね。独Deutschland Radioからの配信です。


▶️ DeutschlandRadio (配信期間は短いと思われますのでお早めに)





«ネット配信»
Mahler Symphony No. 5


JurowskiRSO-mahler5-2022sep.jpg
[Live at Philharmonie Berlin, 13 Sep. 2022]


第一部
やや緩めのファンファーレ、主部葬送はスローで緩やかに、第一トリオも激しさよりも主部とのコントラスト、第二トリオでも軽さがあり極端に哀愁に落とし込みません。
第二楽章第一主題はほどほどの激しさで拗さ抑えめ、第二主題の哀愁も少し色合いを深めて第一楽章のパロディ化を避けています。展開部の"烈→暗→明"のコントラストも深彫りしませんね。ディナーミク・アゴーギク共に浅めです。
重厚さを回避してスッキリ見晴らしの良い第一部です

第二部
スケルツォ主題はスローに緩やか、レントラー主題も同じ流れでややコントラストと優美さが弱くいです。ここは優雅な舞踏曲が欲しいですね。
第三主題主部はオブリガート・ホルンが若干詰まり気味、変奏部の変化は弱めです。展開部は締まりをつけますがスローが気になります。再現部もスロー軸、でもコーダでは鳴り良くしっかり締めています。
スローのアゴーギクが足を引っ張って優美さ軽快感不足のスケルツォ楽章です。

第三部
第四楽章主部は静美でスロー甘美に落としません。そしてトリオから回帰ではアゴーギクで感情を上げていますね。印象は濃いめのアダージェットかな?!
第五楽章第一・二主題の絡みは標準的、コデッタ主題も優美さを歌います。展開部も変化球なしのテンションアップで進み、再現部冒頭三主題も抑えてコントロールです。後半からコーダはタメを作ってテンポアップ、締めた演奏で決めるとフィニッシュはビシッとアッチェレランドです。
最後は王道の最終楽章になりました。


重厚や興奮を回避した軽量で明るいマーラー5です。ともすると重心を下げた演奏になりがちな曲ですが、この表現もありかと。

気になるのは主題のスロー化で、どうしても間延び感が付いて周りますね。そこが上手く処理できていたら、面白いマーラー5になっていたと思います。



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





アイスランドの現代音楽家 エイナル・トルヴィ・エイナルソン(Einar Torfi Einarsson)の「Quanta」ノイズ系前衛


エイナル・トルヴィ・エイナルソン
(Einar Torfi Einarsson, 1980/10/10 - )
アイスランドの現代音楽家ですね。レイキャビク音楽大学で習い、その後英のハダーズフィールド大学でアーロン・キャシディに、欧州に場を移してグラーツではベアト・フラーにも師事しています。

室内楽を得意としてKlangforum Wien, Ensemble Intercontemporain, と言ったなだたる前衛アンサンブルが取り上げていていますね。後者を介してIRCAMとのリレーションもある様です。
活動の場は欧州北側と北欧で、音楽祭でも取り上げられる機会が多いですね。



 ▶️ 北欧近現代音楽CD(作曲家別)一覧




Quanta
得意とする室内楽集で、年代的には少し古い10年前までのものになっています。ライナーノートのスコアを見ると五線譜を使わない事もある様ですね。

演奏は次の様に顔ぶれが変わります。
1. Asko|Schönberg, Clark Rundell(cond.)
2. Ensemble Adapter
3. 5. ELISION
3. Manuel Nawri
4. Klangforum Wien, Enno Poppe(cond.)
6. Ensemble intercontemporain, Susanna Mälkki(cond.)







1. Nine Tensions (2008) for 12 musicians
9 partの楽曲で、第一印象はノイズ系ですね。それも単純な特殊奏法ノイズだけではなくて、強音やトゥッティを混ぜて"音"の氾濫のサチュラシオンのイメージでもあります。旋律性は低く無調混沌で少し時代を感じるかもしれません。


2. Seven Intensions (2008-2009) for flute, bass, clarinet, harp, piano and percussion
7 partの楽曲で、1.とほぼ同年作品になります。違いは短旋律が存在してそれが反復・変奏するスタイルになっている事でしょう。とは言え、そこにはノイズや特殊奏法が組み込まれます。表面上のスタイルの違いはあるものの細切れ多パートと言った全体印象は似た感じですね。


3. Tendencies (2009) for oboe, bass clarinet, trumpet, trombone, violin and double bass
8 partの楽曲で年代的にもほぼ同じ、予想通りに基本構成も同じです。楽器構成の多少の違いがありますが、2.と同様に短旋律の反復・変奏もあり基本は無調混沌です。強いて少しの違いを見出すなら、等拍短音反復と叫びの登場でしょうか。


4. Quanta (2010) for 12 musicians
ここから3曲は単一パートです。が、ここでも流れは変わりません。まぁ3.の一年後ですから当然かもしれません。単に細切れ多パートを繋げただけでしょう。新鮮さに欠けるのが寂しいですね。


5. Non-vanishing vacuum state (2011) for bass, flute, bass clarinet, trumpet and cello
特殊奏法が増えている様に聴こえますね。ジャングルの喧騒の様な印象で、無調とかよりも擬似環境雑音方向に舵を切っている様です。環境を想像しながら聴くと面白いノイズ系かもしれません。トゥッティや強音展開はなくなっていますね。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  スコア付きです



6. Desiring-Machines (2012) for 24 musicians
5.と同系ですね。それぞれの楽器が生き物、魑魅魍魎かも、の様な蠢く"音"を出しています。もちろんポリフォニーと言えばそうなのですが、それぞれが生命体の様な感じです。これも一つの前衛の流れに違いなく、本ブログでも何回か聴いています。
でも少なくとも1.- 4.までに比べたら一歩踏み出しているでしょう。



特殊奏法、ノイズ、無調混沌、トゥッティ強音、その全てが織りなす"いかにも欧エクスペリメンタリズム"と言った旧来的な前衛印象ですね。5. 6.では多少面白味が出てはいますが…

処々でラッヘンマンでありシャリーノが出て来て、その手の前衛好きには好評でしょう。個人的には"ハッとする様な何か"がそこに欲しい気がします。




テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ゲッベルス/ハース(Heiner Goebbels & Alfred 23 Harth)の「Live À Victoriaville」前衛ジャズ


Live À Victoriaville
(Heiner Goebbels, Alfred 23 Harth)
前回インプレのハイナー・ゲッベルスと言えば個人的にこのアルバムです。"Duo Goebbels/Harth" によるフリージャズですね。せっかくですから久しぶりに聴いてみましょう。(1987 LIVE, リリースは1993)

このアルバムのラスト "The Peking Opera / Peking Oper" を元に大友良英さんのGround Zeroによる名作「革命京劇」が作られました。

ピアノとサックスのデュオですが、他に演奏する楽器は多彩です。
[ゲッベルス]
ピアノ, シンセ, クラリネット, anches(木管のリード?), テナーサックス, violon chinois, パーカッション,ヴォイス
[ハース]
テノール&ソプラノサックス, バスクラ, anches, トロンボーン, クラリネット, トランペット







1. The Ballad of the Rotten Jacket / Ballade von Zerrissenen Rock
強鍵のpfとサックスが絡む力感溢れる流れ、ジャジーなテーマをキープしていますね。バラードの様なテーマも含まれていますが、中盤にはフリー・インプロビゼーションが登場します。


2. Los campesinos
pfとsaxのバラードで落ち着いて入って来て十分に聴かせると、速いアルペジオになって激しさを増します。そして即興的な興奮えと突入ですね。pfは調性を外して来ます。


3. The Ballade of the Durable Grey Goose / Ballade von der haltbaren Graugans
pfとsopsaxの会話の様な軽快な入り、途中で言い争いになったりw そして混沌的pfとなるとそこからは興奮即興パターンになります。この流れが軸ですね。 笑いをとる曲です。


4. The Laughing and the Crying Man / Der lachende und der weinende Mensch
2'弱の小曲で、エレクトロニクスな楽曲です。anchesを使っている?! パーカッションがアフリカンリズムの様な印象を作っていますね。


5. Lightning Over Moscow / Blitze über Moskau
これも4.と似た様相で、シンセとパーカッションと楽器群で構築されて面白い流れを作っています。ファンクでプリンスっぽさも感じますね。


6. Imagine You're a Dolphin / Stell dir vor, du bist ein Delphin
タイトルの通り水中の環境印象が作られます。pfの特殊奏法が使われているでしょうね。静な流れで面白い音が作り込まれてvoiceも入る楽しい曲です。


7. On Suicide / Über den Selbstmord
バラードで入ります。この時点で流れが予測できますね。と思いきや期待を裏切って即興には陥りませんでしたw


8. Le rappel des oiseaux
twin saxの微妙なホモフォニーで対位的かもしれません。これまでにない古典クラシカルなイメージです。まるでバッハの対位法の様で新鮮に聴こえます。


9. The Peking Opera / Peking Oper
唯一10'を越える曲です。プチプチと言うレコードのスクラッチノイズが入っていますがサンプリングでしょう。そして他にも特殊奏法のノイズが反復する中華和声の上に被り、フリー・インプロビゼーションと遊び心満点の表現が散りばめられて来ます。
サンプリングの中華アジテーションも入ってこれはコラージュと言っていいでしょうね。B.A.ツィンマーマンが聴いたらどう思うでしょう。(大友さんの革命京劇でも書きましたが)

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?



フリー・インプロビゼーションと特殊奏法の表現を軸にした前衛音楽で、今でも楽しく聴けますね。

激しくブロウするよくある即興ジャズ系とは一味違う遊び心に満ちた表現力は今でも魅力的です。特にラストの"The Peking Opera / Peking Oper"は拍手ですね👏



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽





ハイナー・ゲッベルス(Heiner Goebbels) の「Surrogate Cities」と言う滅裂


ハイナー・ゲッベルス
(Heiner Goebbels, 1952/8/17 - )
活躍幅の広いドイツの現代音楽家ですね。演出家でもあって舞台からインスタレーションの方向性まで包括し、ジャンルを大きく跨ぐ活動にもなっています。音楽祭の芸術監督も務めますね。
一般的にはジャズ系の印象が強いかもしれませんが、個人的にはアルフレッド・ハースとのDuoがすぐに浮かびます。(次回インプレ予定です)


 ▶️ 現代音楽の楽しみ方  ▶️ 現代音楽CD(作曲家別)一覧



Surrogate Cities
(Junge Deutsche Philharmonie, Peter Rundel: cond.)
五作品からなる「代替都市」と言うタイトルにあるように都市現象、そのサイズや物語、を表現する試みだそうです。とは言えそこは前衛アプローチですから明瞭に判断できる様な視線や構成ではありません。サンプラーやノイズと言った技法やTEXT引用から、現代都市としてのポジティブなイメージだそうです。よくわかりませんがw

演奏はペーター・ルンデル指揮、ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー管弦楽団です。(Jocelyn B. Smith vocals, David Moss vocals)
ステージではビデオクリップやダンサーと言ったインスタレーション演出ver.もある様で、ラトルBPOが一部のパートをダンスを取り入れて "a dance project" として取り上げていますね。







1. Suite For Sampler And Orchestra
タイトルにある通りサンプラーデータを使っていますが、それが簡単に 'これ' とはわかりません。エレクトロニクス音はわかりますが。
入りは無調の対位的スタンスでオケの楽器が対峙、そこにvoiceが絡みます。無調と調性の狭間にいる様な旋律も存在し、単純反復や即興的な技巧も散在していますね。民族音楽和声あり美しい後期ロマン派動機あり、激しい出し入れ表現や特殊奏法やノイズ、空間音響ももちろん含まれてきますね。要はなんでもありです。

ありとあらゆる技法あらゆる表情表現を駆使しています。調性や無調、多様性と言った事で括る事が出来ません。あえて言うならテクニカル・コラージュとなるかもしれません。ただここまで多種多様だと統一感に欠けて何の音楽?!と感じてしまうかも…


2. The Horatian
3パート構成です。I.は激しい強音パートで入ってきますが、フィルム・ミュージック風の明瞭さ。そこにsopが都市をテーマにしたTEXTを歌います。II.でも変化率は低く流れはキープされて強音が支配的です。III.は緩徐パートで美しいバラードですが取り留めがありません。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  "II. So That Blood Dropped to the Earth"です
  sopは本CDと同じですがより冴えていますね


3. D & C
LIVEではこれが冒頭曲になった様ですね。ここでもうるさい強音で導入部が開始されます。微妙な調性感で絡みますが反復やトゥッティが入ってきて1.の別冊の様な印象で後半は米管弦楽のドンシャン様相です。


4. Surrogate
弦のトレモロで入って来ますが、これも一つのパターンの様ですね。その後は例によって激しい音のやりとりをメインに進みます。それまでの曲の何処かのパートの様で、voiceが入ります。正直なところ飽きますがw


5. In The Country Of Last Things
voiceの語りが主役です。



まずいったいこれは何の音楽なのだろう???と言う印象です。

メインの1. は全体的にゴチャゴチャで音楽が主役と言うよりも舞台音楽の様に他に主役がある音楽に感じます。
それ以外は調性のフィルム・ミュージック風でドンシャン的派手さがあるので米オケあたりが好むかもしれません。個人的には…




テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ミヒャエル・ギーレンの『ペンデレツキ "広島の犠牲者に捧げる哀歌" "怒りの日" | シマノフスキ "スターバト・マーテル"』


Stabat Mater, Dies Irae, Threnody To the Victims of Hiroshima
(Karol Szymanowski, Krzysztof Penderecki)
RSOがリリースするミヒャエル・ギーレン指揮 ウィーン放送交響楽団のシリーズから近現代音楽集ですね。ポーランドを代表する二人の音楽家を取り上げています。

カロル・シマノフスキ(1882-1937) → 1.
ポーランドの近代音楽家ですね。ストラヴィンスキーと同い年、ベルクの三つ下ですね。本ブログではピアノ曲を多くインプレしています。
"スターバト・マーテル" は後期の合唱作品で民族音楽をベースにした作品を多く作った時代ですね。TEXT内容はキリスト教の宗教内容なので真意は汲み取れません。(キリストを失くしたマリアへの哀歌だそうです)

クシシュトフ・ペンデレツキ (1933-2020) → 2. 3.
シマノフスキと同じポーランドの現代音楽家で、ちょうど近代から現代へと世代を引き継ぎます。もちろん欧エクスペリメンタリズム真っ只中でした。今年(2022)国葬が執り行われましたね。

2.はアウシュビッツの犠牲者へ、3.は広島原爆の犠牲者への追悼です。後者はペンデレツキの代表作で、日本人現代音楽家の松下眞一氏の助言で同タイトルになったそうです。両者共に前衛時代の作品です。







1. スターバト・マーテル Op. 53 (1926)
静で幽玄な流れはシマノフスキらしさ、もちろん調性の中にいます。民族音楽よりも宗教旋法を感じますね。特に歌唱が入るパートでは強く、そこにターン音型で浮遊感を付けていると言った印象です。男性歌唱パートはオラトリオ風ですね。(特にパートV.は壮大です)

全体のパート変化は、そこにリズムと速度変化を付けて作っていますね。後期ロマン派のその先、又は新ロマン主義風な印象も残る美しい楽曲です。ギーレンは淡々としたタクトですね。'らしく'ありませんがw


2. 怒りの日 (1967)
3パートの楽曲です。I.は暗い印象の歌唱が入るパートで流れはシマノフスキの延長線上にある様な印象でオラトリオ風です。もちろん静と強音の強いコントラストを作るペンデレツキらしさが基本構成ですね。
II.はクラスターから入り、パルス的なトゥッティ音も登場します。管楽器の即興的な演奏をバックに合唱団が叫ぶ様に曲を作りますね。混沌的なポリフォニーやサイレンと言った前衛技法も入って、感情的な出し入れが強いパートです。
III.は短く、全体としては跳躍音型が多く暗に蠢き烈を叫ぶ楽曲でしょうか。


3. 広島の犠牲者に捧げる哀歌 (1960)
鋭い弦のボウイングから入るスリリングさ。緊張感を湛える中、全てがポリフォニカルに対峙します。旋律性は皆無、無調混沌で空間を飛び回る"音"の世界ですね。ペンデレツキのエクスペリメンタリズムの頂点と言えるでしょう。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?



ポーランドの近現代音楽の推移が楽しめます。シマノフスキのターン音型とペンデレツキの跳躍音型と言ったスタンスの違いも明確で、特にペンデレツキの二曲は素晴らしいですね。

鎮魂をイメージする三曲なので、ギーレンらしいアゴーギクの揺さぶりは避けてタクトを振っているのがわかります。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ブーイング響くバイロイト音楽祭2022 ワーグナー楽劇「神々の黄昏」をNHKプレミアムシアターで観る


問題の2022バイロイト『神々のたそがれ, Götterdämmerung』ですね。ネットで見る限り現地での評価は好ましいレビューは皆無。そしてブーイングで散々だった様です。

演出のV.シュヴァルツは知見が無いのですが、何があったのか。ジークフリートは急遽降板したStephen Gouldで見たかった気がしますね。指揮は当初のP.インキネンではなく変わったC.マイスターの方が好みですが、さてどうなるでしょうか。


バイロイト音楽祭2022 ワーグナー
(写真はwebよりお借りしました)



演出
時代から人・物まで '置き換え' がありストーリーにも手を付ける前衛演出です。指輪は二人の愛の象徴である子供に仕立てられ、愛馬グラーネはジークフリートの従者の設定になり途中で殺されてしまいます。ストーリーは現代的・社会的な病と対比して設定されています。

ジークフリートとブリュンヒルデは異常に太っていて、グートルーネはドラッグ中毒、グンターはアル中。ジークフリートとグンターのキスシーンがあってジェンダー問題も定義している様です。そして三人のノルンが精霊の異様さを纏ったり、血みどろのグラーネのグロテスクさも入ります。
指輪を象徴する子供が縛られるシーンは児童虐待の提示なのかもしれませんが全く受け入れられません

"ネズミのローエングリン"を始めバイロイトと言えば前衛演出な訳ですが、ここでは多くのファクターが中途半端に混ぜこぜで一つ一つのシーンに説得力がありません。

第二・第三幕では舞台が多少なりと抽象的になりファクターが減るのでストーリーに集中出来ますが、ラストはとてもしょぼい展開で台無しになってしまいます。(グンター死なず、ハーゲンは水中に引きずり込まれず、ブリュンヒルデも火炎に飛び込まず自ら横たわるだけ…)


舞台・衣装
序幕・第一幕の舞台は具体的な大道具が揃って一昔前的ステージ情景、衣装は現代風です。後半の第二・三幕はやや抽象的な舞台設定となって暗くなります。この方が今風ですが、前半とのギャップを感じますね。いずれ目新しさはありませんが。
なぜか最後の最後に意味深なプロジェクション・マッピングが使われます。


配役
【女性陣】まずはブリュンヒルデのテオリンですが唯一歌唱力を聴かせてくれたと思います。少々力技的ではありましたが。妹のへヴァルトラウテとのデュエットは良かったですね。
グートルーネのタイゲはぼちぼちと言った印象です。ちょっと安易な肉感的コスチュームとエロティック設定でした。

【男性陣】ジークフリートのヒリーはヘルデンテノールらしいハイトーンですが可もなく不可も無く、グンターのクプファー=ラデツキーとハーゲンのドーメンは演技も歌唱も今一つ説得力が弱い感じです。
男性陣は演出でのキャラクター設定が緩いです。ジークフリートの勇者らしさ、グンターの欲望、ハーゲンの憎々しさ、いずれもゆるゆるイメージですね。

二人の勇者ジークフリートとブリュンヒルデがおデブという設定自体で面白さ半減ですが。


音楽
そんな中にあってマイスターのタクトはメリハリある妥当な演奏でしたね。出し入れテンポ設定も上手く、流れ良く聴かせてくれたと思います。



序幕・第一幕であれやこれやと問題提起ファクターを散りばめた結果各シーンが違和感と集中力に欠ける事になってしまった感じです。

後半は持ち直したのですが、ラストの酷いピント外れ演出がダメ押しとなって散々な "神々の黄昏" でしたね。第一幕が終わると同時に大ブーイング、カーテンコールでも演出陣には容赦ないブーイングでした。

個人的に気になったのはステージで子役を振りまわし続けるのは児童虐待そのものではないかと言う疑問。それも含めてストーリーに入り込めない薄っぺらな演出という印象が拭えません。



【出演】
 ・ジークフリート:クレイ・ヒリー [Clay Hilley]
 ・ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン [Iréne Theorin]
 ・グンター:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー [Michael Kupfer-Radecky]
 ・グートルーネ:エリザベス・タイゲ [Elisabeth Teige]
 ・ハーゲン:アルベルト・ドーメン [Albert Dohmen]
 ・アルベリヒ:オウラヴル・シーグルザルソン [Olafur Sigurdarson]

【合唱】バイロイト祝祭合唱団
【管弦楽】バイロイト祝祭管弦楽団
【指揮】コルネリウス・マイスター [Cornelius Meister]
【演出】ヴァレンティン・シュヴァルツ [Valentin Schwarz]


収録:2022年8月5日 バイロイト祝祭劇場(ドイツ)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





マティアス・ヴェスタゴー(Matias Vestergård) の「Idylls, elegies」デンマーク前衛音楽


Idylls, elegies (Matias Vestergård, b. 1989)
本ブログで注目のデンマークの前衛現代音楽、そのデンマークの若手現代音楽家マティアス・ヴェスタゴーですね。当初はピアニストだった様ですが、デンマーク音楽アカデミーでアブラハムセン(Hans Abrahamsen)らに習い、トーマス・アデス(Thomas Adès)にも師事しています。

オペラからアンサンブル作品まで活動範囲は広く、声楽作品でも力量を見せるそうですね。また古典的なコラールにも興味を示していて、2018-19年と言う近年作品の本室内楽アルバムにも反映されてます。

演奏はエスビェア・アンサンブル(Esbjerg Ensemble)。指揮は1. 2.が宗像礼(Rei Munakata)さん、4.がマグヌス・ラーソン(Magnus Larsson)です。4.にはソプラノのシーネ・アスムセン(Signe Asmussen)が入ります。
現代音楽家でもある宗像さんは多くの前衛音楽アンサンブルを指揮していますね。







1. Three Idylls (2017/2019)
アンサンブル曲ですが、パート1での第一印象はポリフォニーですね。静音空間に様々な楽器が登場してそれぞれの音を描きます。調性的な感覚はありません。かと言って即興的無調混沌の旧来的な印象ではなく、中には反復も存在しています。"なんとなくくっつきながら皆それぞれ"と言った感じでしょうか。パート2はホモフォニーとポリフォニーのボーダー、パート3はホモフォニーでロック&ポップの楽しさで途中から即興的ポリフォニー、と変化率も大きい構成ですね。


2. Six Elegies (2016/2019)
6パートのアンサンブル曲で、最後のパートVI. "Adagio nach J.S. Bach" はバッハのBWV 614ヴェスタゴー編です。
パルス&ピチカート、タンギングや下降音階旋律の並び、それらが一連のつながりを持って進みます。リレーションは明快で強音パルスと静音のコントラストを作り出し、聴いたことのない緊張感を残しますね。そして落ち着く先はバッハの対位法の世界です。


3. Træk (2019)
弦楽四重奏曲です。無調のモノフォニーから入って、ホモフォニーとなり、その二つが繰り返されます。そこには強烈なトゥッティも入ってポリフォニーへと。
もう一つの流れは特殊奏法のノイズが強音で入り込む音の世界ですね。三つの弦が空間に音を引くとそこにギギッとノイズが割り込む、そんな音響空間ですね。


4. To Løppenthin-sange (2018)
ソプラノ、チェロ、クラリネットとパーカッションです。三つの楽器が空間に色を染める中にsopがvoiceを入れる。三つの楽器は伴奏であり、関係のないカラーでもあって、四者は自由な関係を築きながら曲を構成します。
ただいつもの事ですがsopは厄介な無調旋律を歌いません。やっぱり難しいのでしょう。b-clとsopのコントラストがいいですね。


5. Francesca Nocturnes (2019)
アルト・フルート、コールアングレ、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロの構成です。
微妙な調性感、ホモフォニーなのかポリフォニーなのか、紛れ込む反復、そう言った全ての立ち位置が不明瞭な不安定さが全てだとここで気付かされますね。

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  "5. Francesca Nocturnes" Ensemble Rechercheの演奏です



ホモフォニーとポリフォニー、調性と無調、音と音楽、その境界を囲い込む様に楽器を構成させる不確定性が高く不明瞭で不安定な音楽です。そこにはパルス的な強音とノイズの存在が大きく関わっています。

アルバム一枚の中に今まで感じた事がない何かがありますね。"何だかよくわからない変な面白さを感じる" そんな前衛らしさを聴きたい貴方にはオススメですw



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