fc2ブログ

クレール=マリ・ル・ゲ のピアノで聴くリスト『魂の喜び, Joies De L'ame』



魂の喜び
クレール=マリ・ル・ゲ (Claire-Marie Le Guay, pf)
フランスのピアニスト "ル・ゲ" ですね。かつて厄介なグヴァイドゥーリナのピアノ曲集で素晴らしい演奏を聴かせてくれた事を思い出します。

今回はリストのピアノ曲集で、人気曲がピックアップされていますね。ワーグナーの美しい "イゾルデの愛の死" のpfトランスクリプションも入っています。トランスクリプションが得意だったリストですからどんな編曲なのか楽しみです。







1. メフィスト・ワルツ 第1番
「村の居酒屋での踊り」で知られる お馴染みのテンポの速いリストらしいピアノ独奏曲ですね。(管弦楽ver.や四手ver.とは少々異なります)
"烈・静・烈・コーダ"構成で怒涛強烈な曲、それを前面に出しながらリストの作るメロディラインを濃厚に表現します。少し表現主義的な印象もあるくらいですね。

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  濃厚さならこちらも負けていません。ダニール・トリフォノフですね。
  技巧性強調スタイルで弾き倒します!!



2. 愛の夢
第3番ですね。美しいノクターンで、とても表情が豊かな甘美さを奏でます。アゴーギクで作る表情が濃厚さを作りますね。


3.「トリスタンとイゾルデ」より "イゾルデの愛の死"
強鍵で入り、有名な主題を色濃く。原曲のワーグナーよりも濃淡が強いですね。それがリストらしさでしょう。あの冷たく美しい静的な印象よりも、右手と左手のハーモニーを作りつつ強い感情表現になっています。ル・ゲの演奏もそれを強調しています。


4.「詩的で宗教的な調べ」から "愛の賛歌"
スローな緩徐曲です。ここでも緩やかな流れにアゴーギクを振って美しさを甘美さに強調する演奏です。強弱出し入れも強く振って、その印象を深めているでしょう。


5. 「詩的で宗教的な調べ」から "葬送"
pfを大きく鳴らす冒頭、アルペジオ主体のパートもここでは打鍵を強くして、後半の激しい強奏パートは勇壮です。ただ、少し静的な美しさが欠ける感がなきにしもあらず かもしれません。pfを鳴らす曲になっています


6. 巡礼の年第1年「スイス」から "泉のほとりで"
有名なパートですね。水の流れの美しいアルペジオが印象的ですが、個人的な好みはもっと静的中心の繊細さかもしれません。ここでは強音と技巧を見せるル・ゲですね。


7. コンソレーション ver.1850
これまた美しい流れの人気曲ですね。予想通りにル・ゲは濃いめの表現です。pfパフォーマーでもあったリストですから、このくらいの表現の方が合っているのかもしれません。よく知られる "III. Lento placido" は甘美です。



技巧性よりも濃厚表現のル・ゲのピアノです。アゴーギクとディナーミクが明確で、静の感情表現を前者で、強弱出し入れを後者で色付けます。とにかくpfを鳴らしますね。

リストのよく知られるピアノ曲を表情濃く聴きたい方にオススメの一枚になっています。




テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





『マーラー 交響曲 第5番』 «ネット配信» アンドルー・マンゼ指揮 / ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管 2021年9月23日



アンドルー・マンゼ | ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
(Andrew Manze | NDR Radiophilharmonie)
英人指揮者マンゼが主席指揮者を務めるハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管との演奏ですね。webサイトを見るとポップな活動もしている様ですが、本来古典を得意とする指揮者とオケのマーラー5はどうでしょうか。

今回はNDR Radioからの配信です。


▶️ NDR Radio (公開は短いと思われますので、お早めに)





«ネット配信»
マーラー 交響曲 第5番

AndrewManze-Mahler5-2021sept.jpg
[Live at Kuppelsaal in Hannover, 23. Sep. 2021]


第一部
クセの無い教科書的な葬送行進曲、第一トリオもSTDで、第二トリオも哀愁らしさを色濃くですね。
第二楽章第一主題と第二主題は、一楽章のトリオ回帰的。展開部の"烈→暗→明"も、再現部主題の色付けも、多少のアゴーギクはありますがは個性とまでは行きません。
真面目な第一部ですね。

第二部
スケルツォ主題は華やかに、レントラーは緩やかなアゴーギクの優美さ、第三主題hrは朗々と鳴らして典型的な提示部です。展開部・再現部、これまた教科書的。一気に走りたいコーダも約束通りに盛り上げます。

第三部
第四楽章主部は暖色系の美しさ、山場はマーラーの緩徐らしく盛り上げて甘美さを聴かせるアダージェットです。
第五楽章第一・第二主題共にリズム感良くコデッタは優美、展開部はテンポと力感高めです。再現部も三つの主題を軽く流して山場へ集中、コーダはアッチェレランドをしっかり効かせて駆け抜けます。
ほぼ多くの演奏で共通する流れの最終楽章ですね。


全体的にとても平均的なマーラー5です。多少のアゴーギクはありますが個性を見せるほどではありませんし、演奏もソロが怪しげですが馬脚を現すわけでもありません。

ワクワク感には欠けますが、安心して気持ち良く聴けるのは間違いありません。これがこのオケと指揮者のフィットした流れなのかもしれませんね。



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ハンマー3発の『マーラー 交響曲 第6番 "悲劇的"』アダム・フィッシャー指揮 / デュッセルドルフ交響楽団



アダム・フィッシャー | デュッセルドルフ交響楽団
(Adam Fischer | Düsseldorf Symphony Orchestra)
アダム・フィッシャーとデュッセルドルフ響のマーラー・チクルス最後の一枚ですね。ここまで好演のマーラーを残して来た兄フィッシャーなので期待値が上がります。

COVID-19ロックダウン直前の演奏だそうです。確かにこの後にパンデミック宣言が出されていますね。





マーラー 交響曲 第6番 "悲劇的"
(2020-2/27-3/2, 三回のLIVEより)



第一楽章
速め勇壮な第一主題、少しパッセージを揺さぶりアルマの主題は緩やか華やかです。ちょっとした揺さぶりスパイスが効いていますね。展開部も第一主題を厳しく、挿入部を緩やかにとマーラーらしい三部形式的展開部を作ります。コントロールの効いた流れからコーダはアルマの主題らしい華やかさで締め括ります。
過度な重厚さや華やかさを避けて程よいバランスですね。

第二楽章
アンダンテを持って来ました。主要主題は緩やかでソフトに少し揺さぶりを入れ、第一トリオは哀愁を強く表現します。中間部(第二トリオ)の陽光の広がりも緩やか穏やかです。第一トリオ回帰の溢れる哀愁もしっかりコントロールされます。
優雅さと哀愁のコントラストを効かせた緩徐楽章ですね。

第三楽章
スケルツォ主題は第一楽章のパロディ的。このパターンだと普通は第二楽章に持って来るのですが… トリオはスローに落としてメヌエット風、マーラーの指示を表現していますね。木管動機もスローに入ってトリオの流れに従う形です。テンポ変化で聴かせるスケルツォ楽章です。

第四楽章
長く厄介な序奏を見晴らし良く作り、アレグロ・エネルジコからの第一主題は勇壮な行進曲。パッセージのhrは気持ち良く鳴らして第一主題と絡んで快感、見晴らしが良いです。
展開部はvc動機と第二主題にメリハリを与え、行進曲は興奮ではなくリズム感の良さが味わえます。似た構成の再現部も華やかに第一主題が現れるとパッセージと共に一気に弾けて騎行は晴れやかに鳴らします。力感よりも晴れやかしい最終楽章になりました。ちなみにコーダで三発目のハンマーが登場しますね。


過度の刺激や興奮を避けたマーラー6です。決して悪いわけではなく、ちょっとした揺さぶりのトッピングもあって完成度は高いでしょう。

楽章ごとの表情もしっかりと作られているので、この曲をじっくり聴きたい方にはジャスト・フィットかと。第四楽章も力感よりもリズム感と見晴らしの良さで一味違います。



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





フィリップ・マヌリ(Philippe Manoury) の『ラボラトリウム Lab.Oratorium』



フィリップ・マヌリ
(Philippe Manoury, b.1952)
お馴染みのフランスを代表する現代音楽家の一人ですね。セリエルからのスタートですが、その後はIRCAMのエレクトロニクス、そして空間音響系と言うイメージでまさに今の時代の欧エクスペリメンタリズムの主流にいます。

マヌリは "サントリーホール サマーフェスティバル 2018" でも来日していますが、その時もIRCAMらしいエレクトロニクスの空間音響系が楽しめました。意外に大きな人でしたね。



 ▶️ 現代音楽の楽しみ方  ▶️ 現代音楽CD(作曲家別)一覧



Lab.Oratorium
(Gürzenich-Orchester Köln, François-Xavier Roth: cond.)
『In Situ』(2013)『Ring』(2016) に続く『ケルン三部作』の結論だそうです。"In Situ"は2013年のドナウエッシンゲン音楽祭で披露されて、インプレしています。
ストーリー的な繋がりではなく、空間音響での繋がりですから如何にもIRCAM仏系のエクスペリメンタリズムと言う流れになるでしょう。

LiveElectronicsだけでなく金管をオーディエンスの後ろにも置いたりと工夫を凝らし、また俳優と歌手が入ってオラトリオ的です。TEXT(Ingeborg Bachmann と Elfriede Jelinek による)はアフリカ難民の地中海における惨事をテーマにしています。

演奏はケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団、指揮はもちろんGMD(Generalmusikdirektor)のフランソワ=グザヴィエ・ロトで、sop, mez, ナレーションが入ります。当然ライヴ・エレクトロニクスはIRCAMですね。








Lab.Oratorium (2018-19)
 1. Vorspiel - 2. Ausfahrt und Reise - 3. Geschichten und Cocktails - 4. Grodek - 5. Anlegen - 6. Wanderland - 7. Nachtmusik und Melodram - 8. Mare Nostrum - 9. Abfahrt (Nachspiel)
1.は二人の俳優によるナレーションから入ります。バックにはノイズ系の即興的な空間音響が響きますが、キラキラとした打楽器類も入ってゴージャス、ポリフォニーありモノフォニーありの混沌です。2.は反復・変奏が主体。3.では宗教音楽的&ジャジーに流れて、語りの背景音楽でメロドラマ風な構成でもあります。面白いですね。

4.はノイズ系から空間音響に、5.はバレエ音楽や強音音飽和的、6.はsop, mezが主役。7.はシンプルな空間音響系に戻り、緊張感ある音空間が登場します。8.はテンポの速いアルペジオの混沌的な連奏からvoiceが入り音が乱れ飛んで混沌の様相を強め、ラスト9.は緊張感漲るvoiceで占められます。



超広角の多様性前衛現代音楽で無調で強音主体の空間音響音楽、ノイズ系でもありサチュラシオン系の様な音飽和から混沌、モードや調性回帰パートまであり、どのパートにもvoiceが登場します。

この辺りが現在の欧エクスペリメンタリズムの先端の一つでしょうか。コンプレックスで素晴らしい作品ですから、ボリュームを上げられる環境で楽しめるとベターですね。





練習風景です
ロト他の話も入りますが、独語では????w。マヌリは英語で助かります



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





バイロイト音楽祭2021 ワーグナー歌劇「さまよえるオランダ人」をNHKプレミアムシアターで観る


今回は演出がチェルニアコフですからタダでは済まないでしょうw

何と言っても "エクサン・プロバンス音楽祭2017 カルメン" で現代のセラピー会場に置き換えて原作には無いシーンまで織り込むと言う暴挙?!に出たわけですから。

もう一つはバイロイトでは初めて女性指揮者ウクライナのオクサーナ・リーニフが振る事、それも新演出のオープニング・プレミアですね。




(全編観られます。日本語字幕はありませんがw)

 

演出
やってくれましたね。呪われた船長も居なければ幽霊船も無い、現代の村で起きる復讐劇に置き換えられています。ラストも'去る'(第1稿)でも'救済'(第2稿)でもなくオランダ人が撃ち殺ろされると言うとんでもない筋書きに書き替えられていますね。

母親を死に追い込んだ男(ダーラント)を、息子(オランダ人)が復讐の為に村に戻ると言う話になっている様です。序曲では母がダーラントに邪険にされて首を◯るまでが舞台で演じられます。

その復讐のストーリーがよく見えず、最後になぜマリーがオランダ人を撃ったのか。そもそも呪われて死なないはずw (そこは置き換えでも不自然)


舞台・衣装
舞台は紙で作った様なシンプルな街並み、そこに酒場、糸紡ぎ、食事、と設定を変えて行きます。衣装は今の時代的で特異性はありません。
ごく平凡で意外性が無いのは前衛演出の魅力に欠けましたね。


配役
まずはタイトルロールのルンドグレンの見た目の存在感が凄いです。そしてクドイ表情作りと演技、バス・バリトンは然程でもありませんでしたが。少々やり過ぎでハリボテ的な印象かもしれませんが、ステージでは映えたかも。

ゼンタ(グリゴリアン)はワーグナーの設定する多くの鬱な女性とは全く正反対です。タバコも吸って明るく快活で主張が強い女性ですね。ヤンキーっぽいその役にはフィットしていたかと。sopは見事でした。

ダーラントのツェッペンフェルトは例によって地味ながら緻密な表現力を駆使していましたね。でも敵役には見えませんでした。
エリック(カトラー)は長身で見栄えしましたしテノールも良かったですが、役としては地味です。
マリー(プルデンスカヤ)は本来なら端役なのですが、今回は舞台でゼンタと対等の立ち位置を付けられて、捻じ曲げられたストーリーを演技と表情で表現していました。今回の演出でフィットしたのはプルデンスカヤでしょう。(マリーは乳母ですが、今回はダーラントの妻でゼンタの母です)


音楽
リーニフはとてもメリハリの強い演奏をみせました。ソリストの力感あるアリアにも覆い被さろうかと言った勢いでしたね。とても主張の強い管弦楽だったと思います。序奏がその割には抑え気味でしたね。音楽は第2稿を使っていました。



極端な前衛演出ですが、その面白さが今回は不発。舞台セットや衣装が地味で前衛ストーリーとの視覚的不整合さも足を引っ張った感じです。

今や前衛で鳴らすバイロイト。この程度のストーリー入れ換えとラストの異常性では満足できず?!

最後に気なったのはやたらと"タバコ"を吸うシーンが多かった事ですね。何を主張したかったのでしょうか。



<出 演>
 ・オランダ人 : ジョン・ルンドグレン [John Lundgren]
 ・ゼンタ : アスミク・グリゴリアン [Asmik Grigorian]
 ・ダーラント : ゲオルク・ツェッペンフェルト [Georg Zeppenfeld]
 ・エリック : エリック・カトラー [Eric Cutler]
 ・マリー:マリナ・プルデンスカヤ [Marina Prudenskaya]

<合 唱> バイロイト祝祭合唱団
<管弦楽> バイロイト祝祭管弦楽団
<指 揮> オクサーナ・リーニフ [Oksana Lyniv]
<演 出> デミトリ・チェルニアコフ [Dmitri Tcherniakov]


収録 : 2021年7月25日 バイロイト祝祭劇場(ドイツ)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





『マーラー 交響曲 第5番』 «ネット配信» マーク・ウィッグルスワース指揮/プロムス祝祭管弦楽団 2021年9月8日

2021 BBC Proms から一昨日(9月8日)の公演 "マーラー第5番" が配信されていますね。


マーク・ウィッグルスワース | プロムス祝祭管弦楽団
(Mark Wigglesworth | Proms Festival Orchestra)
オペラを得意とするイングランド出身の指揮者ウィッグルスワース。以前聴いたマーラー9ではアゴーギクを振った流れを作る印象でした。今回は開催中のBBCプロムスでの第5番、オケはフリーランスメンバーで特別編成されたプロムス祝祭管です。
BBC RADIO 3からの配信です。


▶️ BBC RADIO 3 (4週間とあるので10月初旬くらいまでの様です)





«ネット配信»
マーラー 交響曲 第5番

Mahler5-2021proms_Wigglesworth.jpg

[Live at Royal Albert Hall, 2021-9/8]


第一部
程々の鬱重厚な葬送行進曲。第一トリオは暴れる事はなく王道的、第二トリオはソフトな哀愁で完成度が高いです。
第二楽章提示部第一・第二主題は、過多の力感と情感は抑え気味。展開部はvc動機の静の美しさを強調、第二主題からの行進曲にリズミカルさが光ります。実はこれがこの先の伏線だったのですね。コラールも爽快に鳴らします。
興奮を避けて気持ち良さの第一部です。

第二部
スケルツォ主題は軽妙に舞うように、レントラーは緩やか優美で心地よい対比になりました。第三主題主部はオブリガート・ホルンが落ち着いて鳴らし、弦楽奏とのバランスも気持ち良さがあります。変奏パートもリズミカルでテンポ設定もフィット、それを纏める展開部もスローに入ってテンポアップで仕上げます。再現部はまさに気持ち良さの再現で、コーダはしっかりと鳴らしてまとめます。
これぞスケルツォと言った心地良さ抜群の第三楽章になりましたね。

第三部
第四楽章主部は清美ですが速め、中間部も冷たさと澄んだ音色が美しいです。少し速めで少し揺さぶり、クールで好きなアダージェットですね。
第五楽章序奏は強い揺さぶり、一転第一・第二主題は軽快さの流れを上手く作ります。展開部も力感よりもリズミカル優先でスカッと、再現部冒頭三主題も踊る様な気持ち良さです。山場からコーダは大きく広げて'間'を作り、ラストを一気にアッチェレランドでまとめ上げます。
その瞬間、大声援が凄い!! ちょっとゾクっとしますね。


軽妙爽快の楽しさに溢れるマーラー5です。重厚や力感、哀愁と言った多くの演奏とは一味違います。

爽快で心地良い三拍子の流れで全てがまとまったスケルツォ楽章。クールな清美さが心に沁みるアダージェット。リズミカルな軽快感で駆け抜ける最終楽章。

第一部も見晴らしが素晴らしく、これがCDなら印間違いなしの好演です!!



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





パスカル・デュサパン(Pascal Dusapin) の「À quia・Aufgang・Wenn du dem Wind…」コントラストと緊張感



パスカル・デュサパン
(Pascal Dusapin, 1955/5/29 - )
フランスの現代音楽家でF.ドナトーニやクセナキスに師事しています。そして音楽だけでなくソルボンヌ大では科学や美術も学んでいる様で、東京音大でもマスタークラスを開いていますね。

楽風は初期は音列的な傾向があった様ですが、個人的には調性折衷的な印象です。'前衛性は低いけどもちょっと面白い'、そんな感じでしょうか。(声楽曲を書いてからそうなった様な記述もあります)



 ▶️ 現代音楽の楽しみ方  ▶️ 現代音楽CD(作曲家別)一覧



À quia・Aufgang・Wenn du dem Wind…
(Orchestre National de Pays de la Loire, Pascal Rophé: cond.)
歌曲・ヴァイオリン協奏曲・ピアノ協奏曲で21世紀に入ってからのソリストとオケの三曲です。上記の通りデュサパンが得意とする方向性ですね。

演奏はパスカル・ロフェ指揮 フランス国立ロワール管弦楽団。ソリストは1.がナターシャ・ペトリンスキー(Natascha Petrinsky, mez)、2.はイェルク・ヴィトマンの妹カロリン(Carolin Widmann, vn)、3.は前衛実力者の一人ニコラス・ハッジス(Nicolas Hodges, pf)です。







1. Wenn du dem Wind…, for mezzo-soprano and orchestra (2014) Three scenes from the opera 'Penthesilea'
主人公ペンテジレーアと下僕、そして聖職者の3人のオペラの要約的な3シーン抜粋です。アルバンベクルの"ルルの30年後"の作品だそうです?!

[scene I.]は超静的な機能和声のpf(?)ソロから入り調性を崩したドローン音がクレシェンドに被ってきます。この時点で面白いですね。そこからは旋律感の低い空間音響系の暗い流れとなって、尖ったmezが入りますね。
[scene II.]はpfの特殊奏法が印象的で一面黒雲からの稲妻の様な出し入れが強いオケとmezです。この今風ハイコントラストが個人的デュサパンの印象ですね。
[scene III.]でも刺激的な出し入れの強さ、暗静空間とパルス的炸裂、を軸に作られます。II.の延長上の様な印象ですが、N.ペトリンスキーのmezも鋭く冴えてオペラとして楽しみたい楽曲です。



2. Aufgang, concerto for violin and orchestra (2011)
3パートのヴァイオリン協奏曲で、委嘱&初演のルノー・カピュソンでインプレ済ですね。

I.は暗鬱なオケを背景に繊細なvnが被って入り、反復の様相が強いです。少しヴィトマンのvnが中途半端な印象で、もっと鋭く切れる様な神経質さが欲しい感じですね。中間部で激しいボウイングに一変しますが、そこももっと暴力的でも良いです。ラストのカデンツァもガッツリ来て欲しかったですね。II. III.でも同様で、録音の問題で引き気味の印象があるのかも?!

vnにノリノリ強烈さと先鋭繊細さが不足で物足りなさを感じます。弓がプチプチと切れて、それを引きちぎりながら演奏を続ける、そんな楽曲だと思います。あくまで個人的な好みの問題ですが。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  インプレ済みカピュソン盤の "Aufgang II." キレキレvnです
  オケも緊張感高い激しさで対抗していて全体として濃い表情があります
  これがこの曲本来かもしれません




3. À quia, concerto for piano and orchestra (2002)
デュサパンの代表作で3パートのコンチェルトですね。
いきなりのpfにハッジスの力感とクールさを感じます。オケとの対峙感に迫力があり、長い静音パートでも一つ一つの音に'間'を持たせて緊張感漲る流れをキープするのは流石です。全体を席巻する緊張感は楽曲と演奏者の意図がフィットした結果でしょうね。強音パートにクセナキスを感じます。
他二曲より古い2000年代前半なのですが調性は一番薄く、混沌としたポリフォニカルな構成が魅力的です。



出し入れの強さと緊張感が魅力のデュサパンですね。調性の薄い2000年代から調性回帰が進む2010年代へと変化は見られますが、今の時代のクラシック音楽で楽しめると思います。

今回残念だったのは演奏者によるギャップでした。好みの問題なので致し方ない事ですが。




テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





プロフィール

kokoton

by kokoton
.

    

カレンダー
08 | 2021/09 | 10
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
ようこそ
カテゴリ
ありがとうございます