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ミヒャエル・ペルツェル(Michael Pelzel) の「Gravity's Rainbow」今の欧エクスペリメンタリズム前衛音楽



ミヒャエル・ペルツェル (Michael Pelzel, 1978/3/20 - )
スイス生まれでドイツを活躍の場としている現代音楽家ですね。元はピアノ奏者でオルガン奏者へ鞍替え、作曲はルツェルンやバーゼル、他の音楽院で習っています。ドイツに渡ってG.F.ハースやW.リームに師事しています。

他にもT.ミュライユやB.フラー、H.ラッヘンマンと言ったビッグネームのマスタークラスでも学んでいますね。多いパターンですが各音楽賞を渡り歩いて今がある様です。ダルムシュタットでもセミナーを持つ処まで行っている様です。



Gravity's Rainbow
室内楽メインになりますが、"CLEX"などと言う新しい楽器へのチャレンジも含まれていて、デュオ, トリオ, クインテット, 室内楽, そして協奏曲まで幅広いヴァリエーションが楽しめます。

これでペルツェルの方向性は見える感じですね。演奏者は多岐にわたるので今回は割愛です。







1. Mysterious Anjuna Bell (2016)
  for ensemble and chamber orchestra
旋律ではなく"音"と"響"の前衛現代音楽です。特殊奏法よりもグリッサンドとトリル・トレモロを主体として、そこに打楽器が強烈なガッガ〜ンと入って来ます。弦と管は"キュルルル〜ン"と言った感じでしょう。後半でキラキラする打楽器音の背景音に、弦と管の下降音階の笑い声の様なグリッサンド音が入るのは面白いですね。シャリーノ風でしょうか。


2. Carnaticaphobia (2017)
  for percussion, piano and cello
pfは特殊奏法ですね。その打音が響く中にキラキラしたパーカッション、そしてキュルキュルと鳴らす下降グリッサンドのvcが入ります。エレクトロニクスも感じる様な…
一曲目をスリムにした楽曲です。同期した強音が現れたり、ポリフォニー的に絡んだりしますね。流れの変化はちゃんとあるのですが、全体印象は"どこかで聴いた様な前衛"です


3. Gravity's Rainbow (2016)
  for CLEX(contrabass clarinet extended) and orchestra
まず気になる"CLEX"とは電子拡張コントラバスクラリネットです。Clarinet Extendedの略で、超小型モーターとセンサーによってトーンホールを制御するそうです。

楽器の性格から予想がついてしまうのは困りますねw 重低ドローンの様な印象、静に現れるバスクラの音色、そんな空間です。バスクラは特殊奏法的な音色を出しますが、特殊奏法なのかは不明です。旋律と呼べるか微妙な音の並びで、フリー・インプロビゼーション的にもなって行きます。そこへまたもやキラキラのパーカッションとネコの様なグリッサンドが登場し、後半はポリフォニー的な流れも…新鮮さ不足ですねぇ。


4. "Alf"-Sonata (2014) for violin and horn
テープ(他のポップな音楽の録音)が入ります。何やら二人でvoiceも出してDialogueですね。ヴォイスと演奏の両方で対位的に戦います。これは面白いです!!

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  Noëlle-Anne Darbellay, violin / Samuel Stoll, horn のLIVEです



5. Danse diabolique (2016)
  for winds, harp, organ, piano and percussion
"I. Introduction" は全体的にキラキラ音で始まり、最後までロングトーンの音を引っ張ります。"II. Danse diabolique" では、それを基本に重低音が入ってドローン的な印象が強くなります。即興的にもなったり変化はしますが…



旋律ではなく、楽器の"音"と"響"の前衛現代音楽です。いかにも欧エクスペリメンタリズム前衛音楽と言った風ですね。

面白いのですが、今や新しさを感じられません。静の中に"音"が現れるのは常套手段ですし、誰かの亜流的な感じが逃れられません。弦のグリッサンドはS.シャリーノが浮かびますね。



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エディット・カナ=ドゥ=シズィ(Edith Canat de Chizy) の管弦楽「Times」空間音響系現代音楽



エディット・カナ=ドゥ=シズィ
(Édith Canat de Chizy, 1950/3/26 - )
フランスのベテラン女性現代音楽家ですね。早くからエレクトロニクスを導入した事で知られていますね。ソルボンヌ大で音楽以外にも考古学や哲学も学んでいる様で、パリ音楽院ではアナリーゼや作曲をはじめ多くのジャンルで優秀な成績だったそうです。

エレクトロニクスと本人の楽器でもあるヴァイオリンをはじめとする弦楽を得意としてIRCAMにも楽曲提供していますね。来日経験もあります。



Times
大規模オーケストラ作品集になります。曲により指揮者とオケは代わりますが、山田和樹さん(1)と井上道義さん(3)が指揮者で入っていますね。







1. Times (2009)
代表作ですね。旋律はありますが主張は低く、鳴り響く"音"に軸足がありますから空間音響系でしょう。強音パートが多く、緊迫感のある打楽器・管楽器の音色が特徴的です。終盤に静音パートが来ますね。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?


2. La Ligne d'Ombre (2004)
ノイズから入って来て、グリッサンドで音が広がり始めます。そして強音パートになると打楽器・管楽器が鳴らします。静の中の微音・弱音が主体になっていますね。音数は決して少ないわけではありませんが。


3. Yell (1989)
緊張感がありますね。静の空間が強調されていて、音も静音が中心的で幽玄さが感じられます。そこが前の二曲との違いですね。背景には微小な残響音が常に残されています。もちろん溢れる様な音の空間もやって来ます。
カナ=ドゥ=シズィの楽曲構成は短旋律の反復と単音ロングトーンが主体ですが、グリッサンドとトリル・トレモロがポイントになっている感じですね。


4. Alio (2002)
得意とする静の緊張感をベースとするパターンです。


5. Omen (2006)
無音に近い微音ノイズ(弦のトレモロでしょうか)から入ってくるのもパターンの一つですね。背景音のノイズは鍵盤打楽器のボウイングも使っているかもしれません。(間違っていたらゴメンなさい) clとperc.が音を主導して、緊迫感の中に音が散りばめられます。



基本は調性ですが旋律で構成されてはいません。空間音響系、張り詰めた"音"のサウンド・スケープですね。

好きなパターンですが、弱点は似たり寄ったりの危険性と少し古さを感じる事かも。一曲目などはクセナキスやヴァレーズが浮かびますね。



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「Vienne 1900 Le Salon De Musique」20世紀初め、ウィーン・サロンの音楽



Vienne 1900, Le Salon De Musique
本ブログのメインとなる前衛現代音楽の夜明け、1900年ですから世紀末ウィーンの音楽の方がピッタリですね。音楽の中心地でハプスブルク帝国(オーストリア=ハンガリー帝国)の首都ウィーン。斜に構えた音楽関係者、新しい音楽、と言ったイメージでしょうか。

見てわかる通りで今回の音楽家5人は互いに人間関係が交錯しているのも特徴ですね。世紀末ウィーン音楽家が並ぶ今回の顔ぶれ、これにフランツ・シュレーカー(1878-1934)が入れば完璧!?
個人的に興味深いのは最後まで前衛方向へ向いていたヴェーベルンが入っていない事ですね。


そして、何と言っても演奏者の豪華さが楽しみですね。全員が揃うのは最後の一曲です。(恥ずかしながらvcだけ知見がありません)

 ・樫本大進 (ヴァイオリン)
 ・エマニュエル・パユ (Emmanuel Pahud, フルート)
 ・ポール・メイエ (Paul Meyer, クラリネット)
 ・ズヴィ・プレッサー (Zvi Plesser, チェロ)
 ・エリック・ル・サージュ (Éric Le Sage, ピアノ)

入手理由は近現代音楽と樫本さんの組合せですね。どんな表情を見せてくれるのでしょう。








エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト
(Erich Wolfgang Korngold, 1897-1957)
マーラーに天才と言われたオーストリア人音楽家ですね。ツェムリンスキーにオーケストレーションを見てもらったり、マーラーからのアドバイスを受けたりしていますね。ナチスから逃れる為、後年は米国に渡り映画音楽家として活躍しましたね。

ピアノ三重奏曲 Op. 1 (1909-10年)
 四楽章、pf, vn, vc, のトリオです。第一印象は三人の音の主張で、色濃くハードな演奏になっています。vnの鳴りの太い音色がいかにも樫本さんらしくて、聴き応えがありますね。vcが負け気味ですw

楽章構成は古典的な "アレグロ-スケルツォ-ラルゲット-フィナーレ" で、曲調は新ロマン主義的な印象と後期ロマン派の美しさが共存する様な感じです。主動機の変奏・反復的が印象的な1st mov. 飛び跳ねるpfとvnの変奏変化の2nd mov. 緩徐楽章で調性の薄さを感じる3rd mov. 力感と一楽章回帰的な4th mov. と言った感じです。2nd mov. の変化の多い構成と、際どい調性に対位的な3rd mov.が面白いですね。



アレクサンダー・ツェムリンスキー
(Alexander Zemlinsky, 1871-1942)
オーストリアの音楽家で、シェーンベルク, マーラー, コルンゴルト, が師事していますね。アルマ・シントラーがマーラーと結婚する前の恋人で、妹がシェーンベルクと結婚しているので義兄弟です。

クラリネット三重奏曲 ニ短調 Op. 3 (1896年)
 三楽章形式、cl, vc, pf, のトリオです。演奏はピアノの主張が強いですね。ついクラリネットの音を探してしまいます。力感が強い演奏はピアノが煽っているから、と言った気もしますw

こう並べて聴いてみると、師事していた以上にコルンゴルトはツェムリンスキーの影響を受けたのではないかと感じてしまいますね。構成は古典的で "アレグロ-アンダンテ-アレグロ" ですが、曲は新ロマン主義的な色合いを感じます。緩徐楽章でも調性の微妙な印象も感じられます。3rd mov. で見せるvcの速いピチカートはJazzyな新しさを感じますね。



グスタフ・マーラー
(Gustav Mahler, 1860-1911)
このブログのメイン・ターゲット、言わずと知れたウィーンで活躍した指揮者・音楽家ですね。歌曲をフルートとピアノために編曲(コーンフェイル b.1979)したものですね。二曲とも3'ほどの小曲です。

ラインの伝説, "子供の魔法の角笛"より (1892-98年 org.)
 マーラーの歌曲の印象とはかなり異なりますね。三拍子のホモフォニーで洒脱ささえ感じます。時代感が遡る印象にはなりますが。


いつも思う、子供たちはちょっと出かけただけなのだと, "亡き子をしのぶ歌"より (1901-04年 org.)
 こちらの方がpfとflが対位的になっているパートが多く、時代的にはフィットしている感じがします。ただ、ここに本当にマーラーを入れる、トランスクリプションまでして、必要があるのかは疑問ですが…



アルバン・ベルク
(Alban Berg, 1885-1935)
シェーンベルクに師事し、ともに新ウィーン楽派ですね。"ルル" や "ヴァイオリン協奏曲" で人気の現代音楽家、方向性もヴェーベルンに比べるとシェーンベルクに似て最後は調性回帰していますね。

ピアノ・ソナタ ロ短調 Op. 1 (1907-08年)
 一楽章ですがソナタ形式の三部に構成されて、調性は薄くなります。半音や全音音階での不協和音が詰まっています。初演での聴衆の印象は先進すぎて良くなかった様ですが、旋律感はあるので今なら違和感なく受け入れられるレベルかと。
ル・サージュのpfは表情を強く表現するので新ロマン主義風の印象にもなりますね。


クラリネットとピアノのための4つの小品 Op. 5 (1913年)
 5年の変化で明らかに無調作品となっていますね。Op. 7が"ヴォツェック"ですから。それでもベルクらしいのは旋律感がある事でしょう。1'〜3'強の小曲四楽章構成です。可能性を感じても、この先が行き止まりだとわかっていますからねェ…


アダージョ, 室内協奏曲より [cl, vn, pf, 編曲版] (1923-25年)
 十二音技法になる前、既に音列配置にはなっている楽曲です。もちろん無調・点描的ですが、そこはベルクなので不安定ながら旋律が奏でられます。三者はポリフォニーで緩い、緩徐楽章抜き取りなので、流れと関係になっています。とは言え、樫本さんとル・サージュがいるので厳しい音のやりとりが発生しますね。それが今回のセットの聴かせ処でしょう。



アルノルト・シェーンベルク
(Arnold Schönberg, 1874-1951)
ツェムリンスキーに師事し、マーラー家で音楽論をたたかわせた訳ですから、まさに世紀末ウィーンの音楽世界ですね。もちろん今回は後期ロマン派から無調への転換期の作品が取り上げられています。

室内交響曲 第1番 Op. 9 (1906年)
 ヴェーベルンによるフルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの編曲版です。処々で"浄夜"の様な調が出現したりと調性軸足ですが、ホモフォニーからポリフォニーを楽器間で激しく行き来交錯します。ハイテンポで強音の流れはこのセットの得意とする処で、素晴らしい緊張感が伝わりますね。このアルバムのハイライトでしょう。ラストの樫本さんのvnはキレキレです!!



機能和声から初期の無調へ、調性を超える音楽性を模索する方向になっていますね。タイトルに偽りなし。

演奏は、通して濃厚・力感の室内楽になっています。樫本さんとル・サージュが良いですね。

この時代を聴くのに最高のアルバムでオススメです!!



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カタリーナ&スヴァンテ・ヘンリソン の「High, Low or In-Between」チェロと歌

面白いのか、面白くないのか、聴く人次第のアルバムですねw


High, Low or In-Between
Katarina Henryson, Svante Henryson
スヴァンテは元オスロ・フィルハーモニックの首席コントラバス奏者で現代音楽家、チェロは独学だそうですね。カタリーナはスウェーデンのジャズ・アカペラ・アンサンブル「リアル・グループ, The Real Group」、多々来日しています、の元一員(リーダー)で楽曲提供もしているそうです。ヘンリソンご夫妻ですね。

Svanteのチェロで、奥様Ktarinaが歌います。曲はロック・ジャズ・ポップ・等のカバーで良く知られたナンバーも多々あります。ジョージ・ハリソンの "Here Comes the Sun" とか。
そして曲はお二人の記念になる日々に関係したものが選ばれているそうです。もちろんお二人の楽曲(スヴァンテ*, カタリーナ**)も入って、全17曲。個別インプレは不要でしょう。

使われているチェロも独特のものですね。興味ある方はググってくださいw







1. Come Down in Time - 2. We Walk in a Fog - 3. Here Comes the Sun - 4. *Green (Instrumental) - 5. **A Little Kindness - 6. Eyes of a Child - 7. The Dry Cleaner from Des Moines - 8. *High (cello improvisation) - 9. **I Found the Key - 10. So Long, Frank Lloyd Wright - 11. *In between (cello improvisation) - 12. Everybody's Got To Learn Sometime - 13. Kiss - 14. *Low (cello improvisation) - 15. Det Växer Från Edens Tider - 16. Siv Larssons dagbok (Chega de Saudade) - 17. Monicas Vals (Waltz for Debby)

全体はただのポップなチェロ伴奏ソングです。本当に特別な事は何もありません。ヴァリエーションも似たり寄ったりで、チェロの伴奏というのが珍しいだけ…
スヴァンテのチェロ・ソロ曲*、歌パートの主旋律がある"4.Green"以外、8, 11, 14, は即興で面白いです。ダブルストップなのかエレクトロニクスなのか、と言った面白さや伸びやかさがありますね。全く違う音です。このパターンに歌を載せてくれたら面白かったかもしれません。カタリーナの曲**は、少しジャズ風味かもしれませんが然程の面白さはありません。

カタリーナの声は、楽曲にもあるジョニ・ミッチェルを優しくした様な感じですね。特にシャウトしたりとかはせずに淡々と歌います。歌伴のチェロはピチカートとボウイングを混ぜていますが、特殊奏法的な物はありませんね。ピチカートが多いのが曲の変化を薄めている気もしました。

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  3. Here Comes the Sun、二人のステージです




チェロを伴奏にしたポップ・ソングアルバム。それ以上でも以下でもない様です

現代音楽家のチェロ、ジャズ系ヴォーカリスト、二人が作る……その期待値を上げ過ぎたかもしれませんねw




テーマ : 音楽のある生活
ジャンル : 音楽





トリオ・アッカント の「Other Stories」ラッヘンマンが歌う "さくら・さくら"の怪


ヘルムート・ラッヘンマンが日本の「さくら・さくら」を歌います。


Other Stories Trio Accanto
ラッヘンマンの84歳から桑原ゆうさんの36歳まで、幅広い年代5人の現代音楽家をリストアップしたアルバムになっています。

ラッヘンマンだけ4曲で、他は一曲づつ。ラッヘンマンは本来の特殊奏法ノイズ系とは全く異なるスタンスで、他は前衛系と言う変則のアルバムですね。

トリオ・アッカント(Trio Accanto)はサックス / ピアノ / パーカッションのトリオです。ジャズを弾かないジャズ・トリオだとか。なんとピアノはニコラス・ホッジス(Nicolas Hodges, ハッジスとも)です!! それで作曲家の中にフィニスィーがいるんですね、きっとw








ヘルムート・ラッヘンマン
(Helmut Lachenmann b. 1935)
今更なので紹介は割愛ですね。言わずと知れた欧エクスペリメンタリズム特殊奏法のイノベイターです。
ちなみにCDでは次の4曲は連続ではなく、他の音楽家の曲の間に挟まれています。

■1. Sakura mit Berliner Luft (2008)
 ラッヘンマンが歌う "さくら、さくら" そのものの日本語の歌です。バックのトリオも邦楽和声で続きながら、西洋和声のインプロビゼーション(風)を挟み込み、調性ver.やJazzモード風の"さくら"を出したりもします。その落差が面白いですね。ただ特殊奏法ノイズはないのでラッヘンマンらしくはないかもしれません。パーカッションは鍵盤打楽器が多いです。2008年こんな事をやっていたんですね。タイトルは"ベルリンの空気で、さくら"ですね。


■3. Marche Fatale (2016/17)
 ピアノ・ソロ曲ですが、バリバリ調性のリズミカルなマーチ風、運動会の音楽みたいに弾んでいます。タイトル通りなのですが、ラッヘンマンのこの洒落がわかる様になりたいですね。


■5. Berliner Kirschblüten (2016/17)
 "ベルリンの桜"、これもピアノ・ソロです。思い切り"さくら・さくら"で入ります。わずかに西洋調性ではあります。でもすぐに行進曲風な変奏に、そして強音を生かした重厚な変奏へと、続いてジャジーな変奏、と言った風に"さくら動機"の変奏で遊んでいる感じです。モードもありますが、調性音楽と言って良いでしょうね。


■11. Sakura-Variationen (2001)
 "さくら変奏曲"で、#1, #5, の元になった曲です。再びラッヘンマンの怪しい日本語の歌から入ります。その後の変奏も邦楽和声ベースから西洋音楽和声を混ぜ、変奏を繰り広げて行きます。まさに"さくら変奏"で、パターンは変えますが一曲目の回帰ですね。(作曲年からいけば逆ですが) 後半は無調混沌を交えるのが違いです。

 ★試しにYouTubeで観てみる?
  残念ながらラッヘンマンの歌でもトリオ・アッカントでもないのですが…
  演奏が弱々しくてCDの方が全然良いですがとりあえず




マルティン・シュットラー
(Martin Schüttler, b.1974)
ドイツの現代音楽家でダルムシュタットやドナウエッシンゲンでの活動がある通り、欧エクスペリメンタリズムです。個人的に気になる1970年代生まれですね。

■2. xerox (2003, rev. 2016)
 静や空の中にキラキラとした音が散りばめられた様な空間音響系で、旋律感は無く"音世界"ですね。duplicatesとあるのでエレクトロニクスも入っていますね。昔のテープで言うと転写ノイズです。キラキラは途中からノイズと共に混沌系のクラスター・サウンドで叫びます。今の時代的で面白いですね。他の作品も探してみようと思います。



桑原ゆう
(Yu Kuwabara, b. 1984)
東京芸大で習い、ダルムシュタットのマスタークラスでも学んでいますね。ハヤ・チェルノヴィンにも師事した事がある様です。

■4. In Between (2018)
 ご本人曰く "二つの異なる時間を統合しようとした" との事です。特殊奏法も入れたノイズ系で、反復の強いポリフォニーでしょう。サックスは執拗に短いグリッサンドを繰り出し、ピアノは高音の速いトリル・トレモロ主体に特殊奏法、パーカッションは音階の無い打楽器でノイズです。面白いのですが累計的な印象が残るかもしれません。



マルティン・スモルカ
(Martin Smolka, b. 1959)
このブログでは久しぶりのインプレとなるチェコの現代音楽家です。プラハのAcademy of Fine Arts in Pragueで学び、ドナウエッシンゲンでも活躍がありますね。

■6. fff (Fortissimo feroce Fittipaldi) (2010)
 タイトル通り強音fffの打撃音的な音の繋がりで、ここでも旋律感は無く"音"ですね。途中から弱音pppになりサックスが船の霧笛の様な音を鳴らします。面白いですね。ラストは冒頭の動機?が回帰します。
子供向けのコンサートに準備されていて、サブタイトルには"フィッティパルディの強音の力"ですからF1ドライバーのエマーソン・フィッティパルディがモチーフになっていますね。そんな曲です。



マイケル・フィニスィー
(Michael Finnissy, b. 1946)
このブログではお馴染みの "新しい複雑性" の現代音楽家ですね。何と言ってもピアノ曲の超絶性で知られる処でしょう。ジョナサン・パウエルやニコラス・ホッジスと言った超絶技巧ピアニストを見出している事でも知られていますね。

■7-10. Opera of the Nobility (2017)
 全4パート、トリオが点描的な音を並べて古いセリエルの印象です。Ia, IIa, はチョコマカ・チョロチョロした音色で動機的旋律感はありますが、反復の印象が強いかもしれません。Ib, IIb, は少し流れるsax音になりますね。
サックスの音が二本聴こえるパートがありますが、特にエレクトロニクスの記述はありませんしAltsaxofon単独記載ですね。



ラッヘンマンの調性系の音楽、他4人の無調の"音"中心の前衛音楽。極端な二方向の音楽がミルフィーユの様に組み合わされてまさに"Other Stories"です

かつ、ラッヘンマンは"さくら"変奏を元にして、特殊奏法ノイズや前衛の音は皆無。CD全体としての面白さは十分に味わえますが、ラッヘンマンの意図する処はさて???…???



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マイケル・ティルソン・トーマス 自作自演集『アンネ・フランクの日記から & リルケの瞑想』


興味深いアルバムがリリースされました。指揮者としては来日コンサートのマーラーにも出かけていますしお馴染みですが、今回は現代音楽家として本ブログでも初登場ですね。


マイケル・ティルソン・トーマス
(Michael Tilson Thomas, 1944/12/21 - )
ピアニストとしてコンサートで弾いたりしますが、何と言っても指揮者の顔がメインなわけですね。作曲は南カリフォルニア大学でインゴルフ・ダールに師事しています。ちょっと意外な組み合わせの気がしますね。

広島の原爆をモチーフにした"Shówa/Shoáh (1995)"など興味深い作品がある様ですが、楽風的にはコープランドやバーンスタイン、そしてストラヴィンスキーの影響があるアメリカン・ミュージックだと言われている様です。



From the Diary of Anne Frank & Meditations on Rilke
アンネ・フランクの日記から」はユニセフからの委嘱作品ですね。ライナーノートによれば、交響曲形式で書かれた"メロドラマ"だと言う事です。(音楽で言うメロドラマは"台詞や詩の語りに背景音楽を付けたもの")
アンネ・フランクと同い年だったオードリー・ヘップバーン(ユニセフの親善大使)のために書かれています。音楽でのキーワードは"Dear Kitty"ですね。

リルケの瞑想」はシューベルトのカウボーイ・ソングだと本人は言っていますが、マーラーとの関係を指摘する評もある様ですね。MTTは父親から"Red River Valley"とシューベルトの曲の類似性に付いて聞いていたそうで、それが元になっている様です。

もちろん演奏はMTT指揮、音楽監督25年最後の記念のサンフランシスコ響です。







1. アンネ・フランクの日記から (1990年)
Part 1 は明るいメリハリのある反復を主体とした流れで、その第一主題(序奏?)は微妙な東洋和声的に聴こえますね。第二主題は弦の静的ながれで、その上にアンネ・フランクのTEXT(語り:Isabel Leonard)が入ってきます。澄んだ幽玄さで北欧系の音楽の様にも聴こえます。後半は第一主題が静的な流れで回帰しますね。

Part 2 はアレグロ - アンダンテでしょうか。不安を覗かせる主題から弾む様なトリオ(第二主題?)へと移行して音を強くします。ユダヤ人差別のTEXTが入りますね。不安を下敷きにピチカートを使ったアレグロの流れから、暗く淀んだ中間部(第二トリオ)に入りTEXTはユダヤ人迫害のストーリーになります。

Part 3 は明るい動機が煌めく様に、TEXTは生きて見る外の情景を伝えます。コーダは暗く沈んで終わります。
とても美しく叙情的な調性音楽にユダヤ迫害のTEXTが展開されます



2. リルケの瞑想 (2019年)
いきなりジャイブするピアノが入って来てジャジーな流れを呈しますが、ここだけですねw 続けてフィルム・ミュージック風の流れになってコントラストを付けます。バス・バリトン(Ryan Mckinny)が歌うのですが、これを聴くと確かにマーラー"大地の歌"を思い浮かべますね。メゾ・ソプラノ(Sasha Cook)と入れ替えに歌われるのも同じです。
スローを基調にした淡々とした流れも上手くフィットしていて、ずばり構成は"大地の歌"でしょう!!


 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  MTTのインタビュー入りのTrailerです
  音も良いですね



バーンスタインのミュージカルの様な音楽ではありませんが、調性の旋律が明瞭なマニエリスムの米現代音楽です。

社会問題の様なテーマを基にする米現代音楽でもあり、ピューリッツァー賞狙いの方向性?! これからのMTTに注目ですね。



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カイホスルー・ソラブジ の「"怒りの日"によるセクエンツィア・シクリカ」8時間超えのピアノ・ソロ曲



カイホスルー・ソラブジ (Kaikhosru Sorabji, 1894-1988)
今更のソラブジになりますので以下紹介文は過去ログからになります。

ソラブジと言えばピアノ曲、超絶と長時間でしょう。ブゾーニに見出され、ゴドフスキーやシマノフスキに傾倒したという時点でその方向性は浮かぶのではないでしょうか。

1930年から、自曲の公開演奏を禁止していたのも知られる処で活動期は大きく三つの期間になりますね。その第一期はひたすら長大化した時代で「交響変奏曲(pf版)」は約9時間にもなります。第二期は1940年代を中心として"擬似トーン・クラスター"や長時間の中にパートを区切るといった技巧を凝らす様になります。第三期は1970年代を中心に前衛の停滞期と重なって注目度が上がり、公開演奏解禁や演奏時間も短縮傾向になりました。日本で知られる様になったのはその後でしょう。



Sequentia cyclica
Super Dies Irae ex Missa Pro Defunctis (1949)
ソラブジのピアノ曲と言うとインプレ済みの、"オプス・クラビチェンバリスティクム"(1930)、"超絶技巧百番練習曲"(1944)がよく知られる訳ですが、本人も言っている通りで最大の作品の一つはこの曲になるでしょう。

28パートで8時間を超える演奏時間、初めに提示される4'半のテーマ以降は27パートの変奏になります。実際にはそう単純ではなく、パート22(XXII)の "パッサカリア" は100変奏にもなります。(それだけで1h20mを超えますね)

超絶技巧ピアニストとして知られるジョナサン・パウエル(Jonathan Powell: b.1969)が2010年に全曲を初演して、2015年には録音をしていました。録音の事実は海外で知れれていて(webで読んだ事があります)、やっとリリースされた訳ですね。ライナーノートには、30ページ以上に渡って全曲解説(アナリーゼ的)を含むパウエルによるノートが綴られています。一度読んでから聴くか、聴きながら読むか、それも楽しみです。パウエル曰く"熱帯のノクターンからフーガ, パッサカリアまで、ソラブジの全体像がある"としていますね。






CD7枚組です


0) テーマ
 冒頭提示される"怒りの日"のテーマ、すぐにリストやベルリオーズが浮かびますね、ですがスローで淡々として静的な落ち着いた主題提示となっています。いかにも素材的なプレーンさです。

以下、27の変奏はJ.パウエルによる分類でインプレしようと思います。(聴くのはCDの変奏No.順ですが)



1) 1時間を超える "マイルストーン" の三曲
   (X, XIII, XIV, も大きな塊だと記している部分もありますが、下記3. に)
① IV. Tranquillo e piano
 提示主題のトレースの様な淡々とした流れから入りますが、それが延々と変調・多調的に表情を変えながら続きます。徐々にテンポを上げてコードも出て来ます。極端な不協和音(無調の様な)は一切入りませんね、スコアを見ないとわからないかもしれませんが。パウゼを挟んでセクションが変わりると、同じ様に淡々としたテーマが現れます。時にハッとする様な美しい流れが現れ、クライマックスは35'からの激しさ、聴き処は40'辺りの主題ですね。
最終的な全体調性は"C minor"だとパウエルは言っています。


② XXII. Passacaglia [with 100 variations]
 Variation 100までを9グループに分けて個々の変奏の区切れはありません。Variations 1-11はテーマを鎮めた様な変奏で入り、初めて不協和音の強い流れや右手左手のポリフォニー即興性と言ったXXIまでには無い流れを見せます。それだけでなく、それまでの根底に感じた印象派的な響は薄まっています。12-24ではスロー静で暗い変奏を主体に…と続けたいのですが、残念ながら素人にはVariations 1-11の大きな変化以降は特徴的なモノは感じられませんでした。

 ★試しにYouTubeで聴いてみる?
  "XXII パッサカリア"抜粋です



③ XXVII. Fuga
 5パートのラスト27番目の変奏曲です。タイトル通りにフーガで右手左手が音を出しますが、無調なのか細かな転調なのか不安定な音色を聴かせます。淡々としたヴェーベルンの様な点描的流れから、アルペジオが速くなり、左右の手の対位法的な流れを見せ、和音で音を広げます。そう言った意味では上記① IV.にフーガを入れた様な構成かもしれません。ヴェーベルンが浮かんだのはそれまでに多々感じた印象派的な耽美さが無いからでしょう。
ただ、後半に向かうほど調性的な音になって、タッチも強まります。コーダ?は強烈にpfを鳴らしラスト20"はペダルの残響て終わります。



2) キャラクタ作品 - オマージュ

④ XIII. (ゴドフスキーに)
 ゴドフスキーというよりも、仏印象派の和声ベースのイメージが強いですね。テーマを4回設定しているとパウエルは書いていますが、流れは終始静的美しさです。


⑤ XV. (アルベニスに)
 "Hispanica", スペインの民族和声が感じられる曲になっていますね。この変奏の中で唯一異なる和声を感じられる曲です。弾む様なリズムも特徴的で、明るさがあります。でも根底にしっかりと印象派的な流れは残されていますね。ラスト強鍵で終わるのも珍しいです。


⑥ XVI. (アルカンに)
 聖歌をモチーフにしているそうです。静で美しい和音、どこかサティを思わせる流れから重厚さに変化するこれも特徴的な曲です。"F minor"の調性がアルカンに対する敬意を表していると書いてありますね。


⑦ XIX. Quasi Debussy (ドビュッシーに)
 思い切りドビュッシーですね。というか、全体的にこのイメージが付き纏うので、ここで驚く事は何もない感じでしょうか。パウエルは全体のハイライトだと言っています



3) 時間の長いスローなグループ: X, XIII, XIV
 一括りで1.の"マイルストーン"に含めるグループだともパウエルは書いています。33'あるX.はかなり面白い個人的オススメ曲になっています。ノクターンであり、浮遊感はシマノフスキ、印象派ラヴェルの音色、ドビュッシーのイメージが構成されています。心地良さが感じられますね。XIII は2. に書きましたが似た傾向。XIV はシマノフスキ色が濃く静が強い流れに終始します。
全曲を通して感じる主流がここにある感じですね。心地良いBGMの様です。



4) moto perpetuo(速い) 短い曲:I, VI, VII, XI, XX, XXV
 基本的に速いアルペジオで駆ける変奏ですね。
右手が速いのが特徴の I 、リズミカルに主題を聴かせるVI, VII 、跳ねる様な2'の小曲XI、少し重さを持って弾むXX、瀟洒な右手快速アルペジオの2'の小曲XXVです。



5) 筋肉質な10のパート:V, IX, XII, XVIII
 10'程度にまとめられていて、力感とハードタッチのヴァリエーションではありますが、破れんばかりの音塊という程ではありません。また、流れの中に静的パートも入って構成感もあります。ただ、時たまでいいかな…と言った印象です。"怒りの日"らしい動機を前面に出した強烈なパートが無いのが残念ですね。冒頭だけですが、それを聴けるのがXVIII. です。



6) arioso-type(より旋律的)で短いパート:III, XVII, XIX, XXI, XXIV
 エモーショナルな美しい流れに変奏されて、III. などは仏印象派の様なタッチですね。もちろん流れの中に激しさもあって、ariosoの元語はアリアですが、そう言った感じも盛り込まれています。その後 XVII. は美しい流れ一色、XXI. XXIV. は暗い幽玄な美しさをベースに、といった特徴の薄い流れになります。(XIXは2. に)




とにかく長いのですが、全体淡々とした変奏で予想以上にクールな印象派風です。超絶技巧性をひけらかす事も、殊更のエモーショナルさを奏でる事も、"怒りの日"動機を前面にする事もありません。後期の幽玄さへの道筋なのかもしれませんね。

ピアノ曲マニア必聴、一度は聴かないと!!でしょうかw また、3.のグループをリピートしたらスーパークールな洒脱BGMとしてもアリかと。



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