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バイロイト音楽祭2023 ワーグナーも驚くAR採用の「パルジファル」をNHKプレミアムシアターで観る


Bayreuther Festspiele 2023 "Parsifal"

バイロイトの演出と言えば前衛的で何かしら一悶着起こす訳ですが、今回は一部のオーディエンスしか使えなかったARグラスの導入(準備したのは2,000人中330個) が物議を醸しました。もちろん放送ではそれを見られる由もありませんが。

話題はもう一つ、ガランチャのバイロイト・デビューです。グバノヴァ(Ekaterina Gubanova)の代役で、今回はタイトルロールも代役でした。珍しい事ではありませんが、個人的にはガランチャのファンなので嬉しいですね。



155717.jpg
(写真はwebからお借りしました。左2枚目がARシーン?!)



演出
ストーリーの置き換えと、ストーリーそのものに手を付けた前衛演出です。

聖杯の守護ではなく、デジタル世界でコバルトやチタンと言ったレアメタルの守護者としているそうです。(その解説が無ければ、ただの抽象表現にしか感じませんが…)
聖杯はそれらの結晶になって、最後はパルジファルによって粉砕されてしまいますし、クンドリも死にません。
前奏曲でのグルネマンツとクンドリ似のキャストとのいきなりのセクシャルシーンは奇妙で、ラストでもこの二人が抱き合う姿があります。(クリングゾルの罠にかかったアンフォルタスのイメージ?)

ただ不思議な事に各シーン置き換え感は低く展開もストーリーに忠実になっているので違和感は少ないでしょう。


舞台・衣装
衣装はとても簡易で、舞台もシンプルな大物配置で背後に大きなプロジェクションマッピングが使われます。暗く抑揚の低いシーンは多分ARで様々なシーンが追加されているのでしょう


配役
【女性陣】まずは紅一点クンドリのガランチャ。ワーグナーの楽劇の中で唯一 敵味方が不明瞭な女性役を上手く演じたのではないでしょうか。(第一幕の髪の白黒染め分けはそれを意図?!)
特にシャープで硬質なmezは役柄にとてもフィット、第二幕でパルジファルと対峙するシーンは観応えがありました。

【男性陣】タイトルロールのシャーガーも第二幕の覚醒シーンからは良かったです。それまでは'愚かな'と言うよりも存在不明の印象でしたから。クリングゾルから聖なる槍を取り上げるシーンはゾクっとします。
グルネマンツツェッペンフェルトは抑えた(脇)役を演じるなら今最高のバス・バリトンでしょう。ここでも控えめながら落ち着き払ったツェッペンフェルトらしい演技と歌唱でした。名前を見た瞬間から安心感が生まれる一人ですね。
アンフォルタスのウェルトンも苦痛に支配される王を上手く演じていました。役柄通りではありますが熱演も光ました。
クリングゾルのシャハナンも良い(悪い?w)気配を漂わせて演技力を魅せてくれました。こちらはリアルな憎々しさよりもピンクの衣装とツノでファンタジーっぽさでしょうか。


音楽
有名な前奏曲はややスローに入って静美な流れから少し劇場性を効かせるタクトでした。もっと澄みきった"トリスタンとイゾルデ 愛の死"の様な演奏が好みですが、楽曲全体の動機は含まれるのでこれが良いのかもしれません。全体的にも局所的な強いメリハリを感じる演奏になっていました。


前衛演出は中途半端でした。ストーリーの置き換えや変更は見た目だけで、キャストの動きは本筋通りの王道的。これではギャップも違和感も薄く前衛とは言えないでしょう。

また各シーンは時にあまりにシンプルで 'ARだとどう見えたのか?' が拭えませんでした。

キャストはそれぞれ楽しませてくれました。ツェッペンフェルトとガランチャが良かったですね。独サイトを見ても概ねこの二人の評価が高かったです。
カーテンコールも歌手陣は喝采で演出陣にはブーイングでしたが、個人的には楽しめました。



<出演>
 ・パルジファル:アンドレアス・シャーガー [Andreas Schager]
 ・クンドリ:エリーナ・ガランチャ [Elīna Garanča]
 ・クリングゾル:ジョーダン・シャハナン [Jordan Shanahan]
 ・グルネマンツ:ゲオルク・ツェッペンフェルト [Georg Zeppenfeld]
 ・アンフォルタス王:デレク・ウェルトン [Derek Welton]
 ・ティトゥレル先王:トビアス・ケーラー [Tobias Kehrer]

<合唱> バイロイト祝祭合唱団  
<管弦楽> バイロイト祝祭管弦楽団 [Orchester der Bayreuther Festspiele]
<指揮> パブロ・エラス・カサド [Pablo Heras-Casado]
<演出> ジェイ・シャイブ [Jay Scheib]


収録:2023年7月25日 バイロイト祝祭劇場(ドイツ)


テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





シャンゼリゼ劇場 2022 オッフェンバックの喜歌劇「ラ・ペリコール」をNHKプレミアムシアターで観る


昨年末のパリ・シャンゼリゼ劇場(Théâtre des Champs-Élysées)公演から、ジャック・オッフェンバック(Jacques Offenbach, 1819-1880)のオペレッタ「ラ・ペリコール, La Perichole」です。

演出・衣装はロラン・ペリーでオペレッタは得意とする処でしょうから楽しみですね。(今まで好みの演出に当たった事がないのですがw)



オフィシャルのビデオで、本公演のストリートパフォーマンスです
(ピキーヨ役とダブルキャストのペリコール役二人の三人)

演出
ペリーですから前衛性はゼロ、もちろんストーリーに手を入れるなどあり得ません。いかにもコメディと言ったタッチを強調しています。この手の作品には考える余地を排除した、あっけらかんとした明瞭さがフィットしますね。"魔笛"のパパゲーノのパロディも決まりましたね、上手いです。

舞台・衣装
街中シーンは建物等大物配置はシンプルで今の時代っぽい身なり。でも宮殿シーンはファンタジー系に大仰に揃えて 落差が大きいです。
でもそれにはあまり重要性はなく、いずれも演出はコメディで通されますからストーリーにヴィジュアル的変化を与えるにすぎません。

配役
【女性陣】タイトルロールのヴィオティは、役柄のキャラクタが明確なので殊更なモノが無くても十分に楽しませる事が出来ます。でも悲喜交々の様子を上手く演じてベストロールでしたね。
端役にはなりますが、このオペレッタで重要な"三人の従姉妹"も喜劇らしさを振り撒いて盛り上げました。

【男性陣】ピキーヨのバルベラク、敵役副王ドン・アンドレスのナウリ、共に役柄を超える物は無かった印象ですが、それで良かったのでは。この作品と演出ならこれがフィットでしょう。
パナテッラス伯爵のブリアン、ドン・ペドロのロトは言わずもがなですね。

音楽
序曲は強弱メリハリと表情のある演奏でした。舞台が始まってもオッフェンバックらしい跳ねたリズム感を活かした演奏で明るさを明瞭に出していた感じでナイスフィット。全編"天国と地獄"の流れですw


舞台も音楽もオッフェンバックの喜劇、それを明確に組み立てた演出・演奏でした。配役の技量を問うよりも、如何にストーリーを活かすかで通されていましたね。

この手のオペレッタを久しぶりに理屈抜きで楽しく観られました。前衛好きなので今やオペラは疑問符が付く様な展開でないと満足出来ない困り者ですが。


<出演>
 ・ペリコール (美しい流しの歌手):マリナ・ヴィオティ [Marina Viotti]
 ・ピキーヨ (ペリコールの恋人):スタニスラス・ド・バルベラク [Stanislas de Barbeyrac]
 ・ドン・アンドレス (ペルー副王で好色男):ロラン・ナウリ [Laurent Naouri]
 ・パナテッラス伯爵 (議会の貴族):ロドルフ・ブリアン [Rodolphe Briand]
 ・ドン・ペドロ(リマの長官):リオネル・ロト [Lionel Lhote]
 ・三人の従姉妹:1st[Chloé Briot], 2nd[Alix Le Saux], 3rd[Eléonore Pancrazi]

<演出・衣装> ロラン・ペリー [Laurent Pelly]
<管弦楽> レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル [Les Musiciens du Louvre]
<合唱> ボルドー国立歌劇場合唱団 [Chœur de l’Opéra National de Bordeaux]
<指揮> マルク・ミンコフスキ [Marc Minkowski]


収録:2022年11月23・24日 シャンゼリゼ劇場(パリ)


テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ベルリン国立歌劇場 2022 モーツァルト歌劇「ポントの王ミトリダーテ」をNHKプレミアムシアターで観る

2020年11月初演予定がcovid-19で2年遅れたり、日本人の演出とか何かと話題になったベルリン国立歌劇場(Staatsoper Unter den Linden)のモーツァルト『ポントの王ミトリダーテ (Mitridate, re di Ponto)』がNHKプレミアムシアターに登場ですね。

このオペラも演出の宮城聰さんについても恐縮ながら知見がありません。宮城さんの他にも舞台や衣装, 他にも日本人スタッフの方が多く入られている様です。



オフィシャルのExcerptです
(現在こちらなら全編視聴可能ですね)


演出
番組冒頭で宮城さんの語りがありました。「ラストに鎮魂を入れる事で復讐の連鎖を避ける」「歌舞伎と桃山時代を織り込んで、キャストには等身大の人物像を避ける」と言ったお話でした。

紀元前のローマ帝国との戦いが舞台ですが、ストーリーの置き換えもなく前衛演出ではありません。ただ一面金ピカな武士の世界に仕立ててあります。キャストは直接的な絡みを作らない単独正面向きでの歌唱で演奏会形式の様に感じましたが、それが等身大を避ける事なのでしょうか?! 鎮魂だと言うエンディングも?? (嫉妬と復讐こそがオペラのコアなのでは)

舞台・衣装
舞台には木と金が混ざり合う巨大な雛壇がセットされています。その各段にキャストが登場します。
衣装は男性陣は金の鎧兜、女性陣はやはり金ピカですが日本の着物をベースに被り物は独創ですね。その他大勢は和洋取り合わせですが衣装も基本イメージは金色です。

配役
【女性陣】アスパージアのラビンは延びやかなソプラノと役柄にフィットした佇まいで良かったですね。
シーファレのブラウアーは得意のズボン役(女性が男性を演じる)ですが、リアルな武将役なので演技・ソプラノ共に判断が難しいかもしれません。
イズメーネのアリスティドゥは一人だけタイの様な東南アジア風の出立ちでした。歌唱と表情作りは映えた感じです。

【男性陣】タイトルロールのパティはハイトーンのテノール、役柄と武士の様相にフィットした見栄えの良さでこの舞台一番でしたね。
ファルナーチェのベノ=ジアンはアルトなのでまるで女性の様な声、役柄とのギャップが大きいですね。その設定自体があまり好めませんが…

音楽
序曲はバロックのシンフォニアになりますが、まさに古典の楽曲そのもので個人的には今やまず聴く事のない音楽ですからコメントしづらいですね。(コンサートで取り上げられれば聴きますがw)


括って言えばファンタジー系の"ポントの王ミトリダーテ"ですね。少なくとも前衛ではありません。
金ピカ桃山時代風の舞台・衣装その見た目が主役であり、その設定に違和感を感じると厳しいかもしれません。

また、1770年という時代だからなのかコロラトゥーラの多用、ズボン役がいると思えば男性アルトがいる、と個人的にはアンフィティングな感がありました。そして何より長〜 w


<出演>
 ・ミトリダーテ:ペネ・パティ [Pene Pati]
 ・アスパージア:アナ・マリア・ラビン [Ana Maria Labin]
 ・シーファレ:アンジェラ・ブラウアー [Angela Brower] (ズボン役)
 ・ファルナーチェ:ポール=アントワーヌ・ベノ=ジアン [Paul-Antoine Bénos-Djian]
 ・イズメーネ:サラ・アリスティドゥ [Sarah Aristidou]

<管弦楽> グルノーブル・ルーヴル宮音楽隊 [Les Musiciens du Louvre Grenoble]
<指揮> マルク・ミンコフスキ [Marc Minkowski]
<演出> 宮城聰 [Satoshi Miyagi]


収録:2022年12月9・11日 ベルリン国立歌劇場(ドイツ)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





アレーナ・ディ・ヴェローナ 2022 ビゼーの歌劇「カルメン」をNHKプレミアムシアターで観る


Arena Di Verona 2022 "Carmen" ですね。上演回数が多いので一役2-4人のマルチキャスト。タイトルロールのガランチャは嬉しかったのですが、ドン・ホセはグリゴーロで観たかったかもw

ガランチャのカルメンと言えば2010年のMETが浮かぶわけですが、今回はどうだったでしょうか。当時34歳の若手、この舞台では46歳の円熟期です。



(今なら全編視聴出来ます。ドイツ語字幕ですが)


演出
演出は2019年に亡くなったゼッフィレッリで、舞台/衣装も含めて極めて古典的なステージですね。今や不思議感さえ漂う様な時代になりましたが、大人数のキャストが舞台を埋め尽くし馬も本物だったりと、これぞアレーナ・ディ・ヴェローナらしさでしょう。
本年2023のカルメンもゼッフィレッリの演出が採用されています。

舞台・衣装
と言う訳で、ストーリーを忠実に時代や風物を表現しています。今の時代らしさの欠片もありませんね。

配役
【女性陣】カルメンのガランチャ、2010年のMETでは挑発的で刺激的な印象でしたが、今回はmezも含めて強い女一辺倒に感じましたね。少々艶やかさに欠けたのでは。
ミカエラのレーヴァはちょっと太めで、sopも含めて役らしい可憐さには今一つ届かない様な…

【男性陣】ドン・ホセのジャッジは声も演技も良かったのですが特筆すべきはないかもしれません。良くわからないのですが、何か一つ足りない様な。勿論役柄的にエスカミーリョよりも上なのですが。
エスカミーリョのスグーラは容姿的にはまさに闘牛士、brも華やかな声質で今回一番のフィットでしたね。もちろん"闘牛士の歌"のシーンは人気シーンですから引き立ちました。

音楽
指揮はオペラを得意とするアルミリアートですね。序曲では約束の速めのテンポに各動機を乗せて勢いを付けていました。この演出ですと約束通りと言うのがポイントになりますね。重厚さも避けて良い感じです。


大スケールのアレーナ・ディ・ヴェローナを楽しむ"カルメン"でした。これだけ前衛性が無いと言うのは今や絶滅危惧種の感さえありますね。

ガランチャはMETの時の方が奔放自由さが溢れていた様に思えます。演出の問題でしょうが、若かったですしね。



<出演>
 ・カルメン:エリーナ・ガランチャ [Elīna Garanča]
 ・ドン・ホセ:ブライアン・ジャッジ [Brian Jagde] 固定された日本語表記不明
 ・ミカエラ:マリア・テレサ・レーヴァ [Maria Teresa Leva]
 ・エスカミーリョ:クラウディオ・スグーラ [Claudio Sgura]
  
<舞 踊> アントニオ・ガデス舞踊団
<合 唱> アレーナ・ディ・ヴェローナ合唱団
<管弦楽> アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団 [Orchestra Arena di Verona]
<指 揮> マルコ・アルミリアート [Marco Armiliato]
<演出・美術> フランコ・ゼッフィレッリ [Franco Zeffirelli]


収録:2022年8月11・14日 ヴェローナ野外劇場(イタリア)



(2010 METのガランチャ "カルメン" です)



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





オペラ・コミック座2022 ドリーブの歌劇「ラクメ」をNHKプレミアムシアターで観る


オペラ・コミック座(Théâtre national de l'Opéra-Comique)2022-23シーズン公演から、"コッペリア"で知られる仏ロマン派レオ・ドリーブ(Léo Delibes, 1836-1891)のオペラ「ラクメ Lakmé」ですね。
ラクメの初演から1600回以上上演してきているオペラ・コミック座ですから楽しみです。

演出は衣装も手掛ける事で知られるロラン・ペリー(Laurent Pelly)です。前衛性は無くストーリーに忠実ですから安心して観られそうです。


Lakme_Opera-Comique2022.jpg
(写真はウェブサイトよりお借りしました)



演出
現代風の視覚的舞台ですが、特にストーリーの置き換えは無いようです。ストーリーに手を付ける様な事も当然ありません。今の時代のオペラとしたら、あまりにもおとなしい印象ですね。こうなると歌手陣の出来次第と言う事になるのかもしれません。

舞台・衣装
衣装は現代風と民族衣装と神秘的要素を絡めた様なアースカラースタイルで、舞台は無期的なシンプルさ。端的に今の時代のスタイルと言う事になるでしょう。

配役
【女性陣】何と言ってもラクメを得意役とするドゥヴィエルですが、コロラトゥーラをはじめ繊細なsopを聴かせてくれました。演技を含め鬱に澄んだその姿・気配は巫女であるラクメにピッタリでしょう。
端役ではありますがブレ演ずるマリカは有名なラクメとの"花の二重唱"の為にいる様なもので、感情的な表現を抑えつつも抑揚を付けたDuoを聴かせてくれましたね。
またベンソン女史とエレンとローズの三人も上手くて、今回は女性陣が楽しませてくれたと言って良いのではないでしょうか。

【男性陣】ニラカンタのドゥグーは鉄面皮的な役柄だったので、特に残る印象はないかもしれません。
ジェラルドのアントゥンは見栄えも良く役にピッタリ、テノールを含めて悪い処は特にないのですが全体やや薄い印象でした。

音楽
R.ピションもピグマリオンも得意としているのでしょう。余裕と出し入れの表情豊かな演奏に感じましたね。特に序奏で、オペラの前奏とは思えない表現力がありました。


ラクメならこの舞台しかないと言う訳ですから文句の無いステージでしょう。ラクメ役のドゥヴィエルもフィットしていました。

ただストーリー自体が然程面白い訳でもないので、個人的には今ひとつの印象です。ならばいっその事今っぽい突飛な演出で観たかったかもしれません。


  
<出演>
 ・ラクメ(ニラカンタの娘):サビーヌ・ドゥヴィエル [Sabine Devieilhe]
 ・ジェラルド(英人将校):フレデリック・アントゥン [Frédéric Antoun]
 ・ニラカンタ(バラモン教の老僧):ステファヌ・ドゥグー [Stéphane Degout]
 ・マリカ(ラクメの侍女):アンブロワジーヌ・ブレ [Ambroisine Bré]

<合唱・管弦楽> ピグマリオン [Pygmalion]
<指揮>ラファエル・ピション [Raphaël Pichon]
<演出・衣装> ロラン・ペリー [Laurent Pelly]


収録:2022年10月4,6日 オペラ・コミック座(パリ)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





パリ・オペラ座2022 モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」をNHKプレミアムシアターで観る


今年1/19-2/18のパリ・オペラ座公演からモーツァルトの人気オペラ「フィガロの結婚」ですね。言わずと知れた「セビリアの理髪師(ロッシーニ)」の続編です。

ネイシャ・ジョーンズの演出は多分初めてだと思うので楽しみです。配役的にはピザローニのフィガロドゥダメルの指揮と言うのも注目ですね。


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(写真はwebよりお借りしました)


演出
演出のキーは "ストーリーの置き換え" と "ストーリーの変更" です。置き換えは現代の舞台裏バックステージに設定されて、ストーリーはラストのハッピーエンドを伯爵夫人が指輪を伯爵に返して舞台から去ると言う結末に変えています。
他にも多少のエロティックさも入れたり、大きくプロジェクションマッピング(以下PM)も使います。ただこのレベルの演出は今の時代としては極普通でしょう。当たり前の様にストーリーに手を付けると言う凄い時代になりました。

気になるのは配役に対する性格付けでこの作品に欲しい喜劇らしさが弱いです。ストーリーのラストを決別に書き換えしているので全体喜劇性を排除したなら、結末までそれがわかりません。


舞台・衣装
PMが使われていますが個々の舞台裏控室や衣装部屋に特別な方向性は凝らしてはいません。必要な道具類が配されています。衣装も淡々とした現代の服装で、舞台はやや没個性的印象です。


配役
【女性陣】伯爵夫人ロジーナベントソンは上手かったですね。表情から歌唱まで魅力的でした。
スザンナイン・ファンも表情作りがよく演技力を見せましたが、ベントソンの様なsopの表現力がやや弱い感じでした。
ズボン役(女性が男性役を演じる)ケルビーノのデゾンドレは演技がフラットな印象でしょうか。

【男性陣】フィガロのピサローニは例によって見栄えの良さ。それが役柄とフィットしている時に技量を見せますね。今回は演出もあってか喜劇的な作りが弱かったですね。
アルマヴィーヴァ伯爵のモルトマンは登場時間が長いのですが、地味すぎる衣装と見た目が役柄を堅物感を強調しました。欲望や下心を醸し出して欲しかったです。


音楽
まず知られた序曲でドゥダメルはメリハリを利かせてテンポを速めに持ってきていますね。単独演奏やアンコールの様な印象です。本編中でも歌唱の伴わないパートでは同様な流れを感じました。
(ちなみにオケと指揮者はマスク着用でした)



シリアスさが勝っていて喜劇的な流れが弱いフィガロの結婚になってしまいました。'決別'に変更したラストの為に喜劇性を抑えたのなら不発弾でしょう。

仕込んだエロティックさやPMも効果があるとは思えず、何か一つの個性を徹底して欲しかった気がします。女性陣は楽しませてくれましたね。



【出演】
 ・アルマヴィーヴァ伯爵:クリストファー・モルトマン [Christopher Maltman]
 ・ロジーナ伯爵夫人:マリア・ベントソン [Maria Bengtsson]
 ・フィガロ:ルカ・ピサローニ [Luca Pisaroni]
 ・スザンナ:イン・ファン [Ying Fang]
 ・ケルビーノ:レア・デゾンドレ [Léa Desandre]

【合唱】パリ国立歌劇場合唱団
【管弦楽】パリ国立歌劇場管弦楽団
【指揮】グスターボ・ドゥダメル [Gustavo Dudamel]
【演出】ネイシャ・ジョーンズ [Netia Jones]


収録:2022年2月1, 3日 パリ・オペラ座 ガルニエ宮(フランス)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





ブーイング響くバイロイト音楽祭2022 ワーグナー楽劇「神々の黄昏」をNHKプレミアムシアターで観る


問題の2022バイロイト『神々のたそがれ, Götterdämmerung』ですね。ネットで見る限り現地での評価は好ましいレビューは皆無。そしてブーイングで散々だった様です。

演出のV.シュヴァルツは知見が無いのですが、何があったのか。ジークフリートは急遽降板したStephen Gouldで見たかった気がしますね。指揮は当初のP.インキネンではなく変わったC.マイスターの方が好みですが、さてどうなるでしょうか。


バイロイト音楽祭2022 ワーグナー
(写真はwebよりお借りしました)



演出
時代から人・物まで '置き換え' がありストーリーにも手を付ける前衛演出です。指輪は二人の愛の象徴である子供に仕立てられ、愛馬グラーネはジークフリートの従者の設定になり途中で殺されてしまいます。ストーリーは現代的・社会的な病と対比して設定されています。

ジークフリートとブリュンヒルデは異常に太っていて、グートルーネはドラッグ中毒、グンターはアル中。ジークフリートとグンターのキスシーンがあってジェンダー問題も定義している様です。そして三人のノルンが精霊の異様さを纏ったり、血みどろのグラーネのグロテスクさも入ります。
指輪を象徴する子供が縛られるシーンは児童虐待の提示なのかもしれませんが全く受け入れられません

"ネズミのローエングリン"を始めバイロイトと言えば前衛演出な訳ですが、ここでは多くのファクターが中途半端に混ぜこぜで一つ一つのシーンに説得力がありません。

第二・第三幕では舞台が多少なりと抽象的になりファクターが減るのでストーリーに集中出来ますが、ラストはとてもしょぼい展開で台無しになってしまいます。(グンター死なず、ハーゲンは水中に引きずり込まれず、ブリュンヒルデも火炎に飛び込まず自ら横たわるだけ…)


舞台・衣装
序幕・第一幕の舞台は具体的な大道具が揃って一昔前的ステージ情景、衣装は現代風です。後半の第二・三幕はやや抽象的な舞台設定となって暗くなります。この方が今風ですが、前半とのギャップを感じますね。いずれ目新しさはありませんが。
なぜか最後の最後に意味深なプロジェクション・マッピングが使われます。


配役
【女性陣】まずはブリュンヒルデのテオリンですが唯一歌唱力を聴かせてくれたと思います。少々力技的ではありましたが。妹のへヴァルトラウテとのデュエットは良かったですね。
グートルーネのタイゲはぼちぼちと言った印象です。ちょっと安易な肉感的コスチュームとエロティック設定でした。

【男性陣】ジークフリートのヒリーはヘルデンテノールらしいハイトーンですが可もなく不可も無く、グンターのクプファー=ラデツキーとハーゲンのドーメンは演技も歌唱も今一つ説得力が弱い感じです。
男性陣は演出でのキャラクター設定が緩いです。ジークフリートの勇者らしさ、グンターの欲望、ハーゲンの憎々しさ、いずれもゆるゆるイメージですね。

二人の勇者ジークフリートとブリュンヒルデがおデブという設定自体で面白さ半減ですが。


音楽
そんな中にあってマイスターのタクトはメリハリある妥当な演奏でしたね。出し入れテンポ設定も上手く、流れ良く聴かせてくれたと思います。



序幕・第一幕であれやこれやと問題提起ファクターを散りばめた結果各シーンが違和感と集中力に欠ける事になってしまった感じです。

後半は持ち直したのですが、ラストの酷いピント外れ演出がダメ押しとなって散々な "神々の黄昏" でしたね。第一幕が終わると同時に大ブーイング、カーテンコールでも演出陣には容赦ないブーイングでした。

個人的に気になったのはステージで子役を振りまわし続けるのは児童虐待そのものではないかと言う疑問。それも含めてストーリーに入り込めない薄っぺらな演出という印象が拭えません。



【出演】
 ・ジークフリート:クレイ・ヒリー [Clay Hilley]
 ・ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン [Iréne Theorin]
 ・グンター:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー [Michael Kupfer-Radecky]
 ・グートルーネ:エリザベス・タイゲ [Elisabeth Teige]
 ・ハーゲン:アルベルト・ドーメン [Albert Dohmen]
 ・アルベリヒ:オウラヴル・シーグルザルソン [Olafur Sigurdarson]

【合唱】バイロイト祝祭合唱団
【管弦楽】バイロイト祝祭管弦楽団
【指揮】コルネリウス・マイスター [Cornelius Meister]
【演出】ヴァレンティン・シュヴァルツ [Valentin Schwarz]


収録:2022年8月5日 バイロイト祝祭劇場(ドイツ)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽





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